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錦織、ジョコビッチ攻略のポイント 準決勝進出と「4時間8分の代償」

   テニスの全米OP準々決勝が2018年9月5日(日本時間9月6日)当地で行われ、世界19位の錦織圭(日清食品)が同7位のマリン・チリッチ(クロアチア)を2-6、6-4、7-6、4-6、6-4のフルセット死闘の末、制して2年ぶりの4強進出を決めた。

   一方女子では、世界19位の大坂なおみ(日清食品)が同36位のレシア・ツレンコ(ウクライナ)に6-1、6-1で勝利。四大大会で日本人男女が同時に4強入りを果たしたのは史上初。2014年以来の決勝進出を目指す錦織は、準決勝で元世界ランク1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)と激突する。

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4年前の悪夢

   錦織は4年前の悪夢を自身の手で振り払った。2014年の全米OP決勝戦。チリッチに対して自分のテニスを見失い、ミスも重なり完敗した。この日の序盤、4年前を思い出させる展開になりつつあった。第1セットを先取され、ペースをつかめぬまま第2セットに入った。ゲームカウント2-4で迎えた第7ゲーム。このゲームをブレークすると、リズムを取り戻した錦織は試合を支配し、4時間8分にわたる死闘を制した。コートの上には、この4年間で成長した姿があった。

   日本人初のグランドスラムVに期待が高まるが、その前に大きく立ちはだかるのがジョコビッチだ。現在世界ランキング6位だが、元世界ランキング1位の力は健在で、対戦成績は錦織の2勝14敗と、大幅に負け越している。ただ、2勝のうちの1勝が、2014年の全米OP準決勝戦で勝利したもので、殊勲の可能性は決して低くはない。

   では、ジョコビッチ攻略のポイントはどこにあるか。ひとつは、錦織の立ち上がりにある。スロースターターの錦織は、得意の打ち合いからリズムをつかんで徐々にペースを上げていくタイプ。そのためギアがトップに入るまで多少の時間を要する。序盤でリズムをつかみ切れなければジョコビッチを倒すことは厳しい。実際、過去ジョコビッチに喫した14敗のうち、11試合で第1セットを落としている。

   ここで4年前の準決勝を振り返ってみたい。まず立ち上がりにペースをつかんだのは錦織だった。6-4で第1セットを先取。続く第2セットは一転してジョコビッチが試合を支配し、6-1でジョコビッチ。第3第4セットは双方明らかに疲労の色が濃く、消耗戦となったが、錦織が精神力で上回り7-6、6-3で試合をものにした。

スタミナ問題

   ジョコビッチ攻略のもうひとつのポイントは錦織のスタミナだ。錦織の最大の武器は、俊敏なフットワークと爆発的な瞬発力。身長178センチと世界のトップ選手と比べてみても体格的に恵まれてはいない。それを世界トップクラスのフットワークと瞬発力でカバーしてきた。積極的にコートの中に入っていき、縦横無尽に走り回る。錦織の代名詞でもある高い位置のボールを飛び上がって叩き込む「エアケイ」もまた、錦織の持つ身体能力の高さの証明である。無尽蔵ともいわれる錦織のスタミナだが、準々決勝の「4時間8分」がどのように影響するか、疲労の回復具合が大きなカギを握る。

   「過去の実績は関係ない」。マイケル・チャンコーチは錦織に言い続けてきた。2011年にマイケル・チャンコーチに出会うまで、錦織になかったものは「自信」だった。すでに技術的には世界のトップクラスにいたが、世界の舞台では、ここ一番で勝てなかった。精神的な弱さがそこにはあった。マイケル・チャンコーチはそれを見抜いていた。コーチ就任後は、徹底して精神力を鍛えあげた。「相手よりも、自分が勝つという強い意志が必要だ」。身長175センチと小柄ながらグランドスラム優勝1回、準優勝2回の実績は、説得力十分だった。

   4年前は、錦織の正確かつ強烈なリターンを警戒するあまり、ジョコビッチのサービスが乱れた。ファーストサーブが入らないジョコビッチのセカンドサーブを狙いすまし、次々とリターンエースを奪い、流れを引き寄せた。ラリーでも試合巧者のジョコビッチに一歩も引けを取らなかった。世界と渡り合う「自信」が、攻めのテニスとなり、番狂わせを演じて見せた。

   フルセットの末に勝利した錦織に対して、ジョコビッチは貫禄のストレート勝ちでスタミナを温存させて準決勝進出を決めた。日本時間9月8日の準決勝は、コート上の「敵」と「疲労」との闘いとなるだろう。