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中日根尾の「愛読書」特需を超える? 「新1万円札」で渋沢名著がスゴいコトに

   新しい1万円紙幣に肖像が描かれることが発表された渋沢栄一の著書について、出版社に問い合わせが殺到している。

   特に複数社で刊行されている代表作『論語と算盤』は、元々ビジネスパーソンの定番書として長く読まれてきたが、人気再燃の兆し。すでに重版を決定した出版社もある。

  • 表面に渋沢栄一の肖像が描かれる新1万円紙幣(財務省の発表資料から)
    表面に渋沢栄一の肖像が描かれる新1万円紙幣(財務省の発表資料から)
  • 表面に渋沢栄一の肖像が描かれる新1万円紙幣(財務省の発表資料から)

「普段の2倍近く注文がありそうです」

   渋沢栄一は日本初の銀行である第一国立銀行、東京株式取引所(現・東京証券取引所)をはじめ、約500企業の設立に携わったとされる明治・大正期を代表する実業家。大学設立や社会貢献事業にも尽力し、「日本資本主義の父」と称される。

   新1万円紙幣の表面に肖像がデザインされることが2019年4月9日に発表されると、その人物像や功績とともに「著書」にも大きな注目が集まった。特に1916年初版の『論語と算盤』は、『論語』の精神にもとづいた渋沢の経営哲学を収めており、のちの経済人に大きな影響を与えた代表作。現在も複数の出版社から刊行されており、新紙幣の発表を受けて各社一気に慌ただしくなった。

   2008年に同書を発売していたKADOKAWAは9日、公式サイトで「代表作『論語と算盤』緊急重版決定」と発表。同書について「金儲けと社会貢献の均衡を図る、品格あるビジネスマンの必読書として弊社でも刊行以来読まれ続け、現在も重版を続けるロングセラー作品です」と説明している。同社で2010年に発売された『渋沢百訓 論語・人生・経営』とあわせ、

「新紙幣への肖像画起用が発表されてからは両書籍共に書店注文が相次ぎ、これに対応するため『論語と算盤』1万部の重版を決定し、追加の重版も検討中です」

としている。

   『現代語訳 論語と算盤』(守屋淳訳)を2010年に発売していた筑摩書房も9日、公式ツイッターで「2万部を緊急重版します」と発表。累計20万部を突破する見込みだという。

   1985年に『論語と算盤』を発売した国書刊行会は10日、J-CASTニュースの取材に「書店さまから個人のお客様まで、関連書籍とあわせて結構な数の問い合わせを頂いております。もともと売れている書籍ではありましたが、今回は普段の2倍近く注文がありそうです」と話す。重版するかどうかは今後の動きを見ながら決めていくという。

「人間学のようなテーマ性もある」

   初版からちょうど100年後の2016年、同書を上巻『自己修養編』と下巻『人生活学編』(いずれも翻訳・奥野宣之)に読みやすく2分冊した致知出版社は9日、新紙幣の発表を受けて公式サイトを更新。月刊誌『致知』2011年12月号に掲載していた、渋沢栄一の子孫でコモンズ投信社長(当時)の渋澤健氏と、明治大学文学部教授の齋藤孝氏との対談記事を抜粋・編集して掲載する力の入れようだ。

   担当者は10日、取材に「昨日だけで書店さま10店舗ほどから、フェアで『論語と算盤』を出したいということで注文を頂きました」と話す。対応できるだけの在庫があるため、現時点で重版は決めていない。同書について「『論語』の教えをどうやってビジネスに生かしていくかが書かれています。人間学のようなテーマ性もある1冊ですね」と勧めている。

   実は直近でも同書が注目されたことがあった。2018年10月のプロ野球ドラフト会議である。史上最多タイの4球団から1位指名を受けた末、中日ドラゴンズに入団した根尾昂・内野手が愛読書のひとつとして『論語と算盤』を挙げていたことが報じられたためだ。致知出版社の担当者は「根尾さんが読んでいるということで、その時も注文が相次ぎました。今回の新紙幣の発表は、その時以来の注文が届くかもしれません」と話している。

(J-CASTニュース編集部 青木正典)