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債権法改正の全体像(第1回)

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弁護士 髙木弘明(西村あさひ法律事務所)

1 はじめに

平成29年5月26日、「民法の一部を改正する法律」(平成29年法律第44号)が国会で成立しました。この法律は、民法のうち、いわゆる「債権法」と呼ばれる部分を改正するものです。
今回の債権法改正では、広い範囲で見直しがされたことから、社会生活や企業法務にも影響を及ぼす事項が含まれています。本連載では、これまでの民法のルールから何が変わるのか、また社会生活や企業法務にどのような影響があり得るのかについて、複数回に分けてご説明していきます。

2 これまでの民法改正

民法は、今から約120年前の明治29年に制定され、その内容は、「第1編 総則」、「第2編 物権」、「第3編 債権」、「第4編 親族」、「第5編 相続」の5つの編に分かれています。これらのうち、いわゆる「家族法」と呼ばれる「第4編 親族」と「第5編 相続」の部分は、終戦直後の昭和22年に日本国憲法制定に伴い全面的な改正がされ、その後も数回にわたって重要な改正がされてきました。最近も、平成28年6月に女性の再婚期間禁止期間の短縮等に関する改正が行われています(平成28年6月7日施行)。

他方、財産に関するルールを定める民法第1編から第3編まで(「財産法」と呼ばれます)は、平成16年にこれまでカタカナで書かれていた規定をひらがな表記とするとともに、規定を口語化する全面的な改正がされました。しかし、その改正では、規定の内容自体はほとんど変更されず、明治29年の制定当時の規定が残っていました。今回の民法改正は、財産法について、民法制定以来初めて抜本的な規定内容の見直しがされたものということができます。
今回主に改正されたのは、財産法の中でもいわゆる「債権法」と呼ばれる部分、つまり「第1編 総則」の一部(第5章「法律行為」および第7章「事項」)と「第3編 債権」の一部(第1章「総則」および第2章「契約」)になります。そのため、今回の改正は「債権法改正」と呼ばれることが多いです。

3 民法が改正された理由

債権法の改正に向けた議論が法務省(法制審議会)で始まったのは、平成21年です。その議論を始める際に観点として示されたことは、①民法制定以来の社会・経済の変化への対応を図ること、そして②国民一般に分かりやすい規定とすることでした。

明治29年の制定当時から現在に至るまで、社会・経済が大きく変化していることは改めて説明するまでもないでしょう。それに伴い、債権法の規定には直接定められていない取引やそれに伴う論点が多数生じてきました。それらを解決するため、裁判所において多数の重要な判決が出され、また、民法学者によって様々な議論が積み重ねられてきました。これにより、民法の規定自体を改正しなくても、社会・経済の変化に応じたルールが形成されてきました。しかし、他方で、法的な知識があまりない一般国民が民法の条文そのものを読んでも、それだけでは現在の社会・経済状況に応じた現在のルールがどうなっているのか分からないという状態になっていました。
今回の債権法改正では、これらの確立した判例・学説を明文化するための改正や、現行民法の規定の趣旨をより明確化するための改正が大部分を占めています。これにより、民法の条文を読めばある程度現在のルールを理解することができることが期待されています。

4 実質的な規律内容の改正

今回の債権法改正では、項目としては少ないものの、現行民法の定めるルールを実質的に改正する項目が含まれています。具体的には、時効に関する規律、法定利率に関する規律、保証債務に関する規律、提携約款に関する規律等です。
これらについて、どのような点が現行のルールから変わることになるのか、次回以降、具体的にみていきます。

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■著者プロフィール


takagi.jpg 弁護士 髙木弘明(西村あさひ法律事務所)

西村あさひ法律事務所パートナー。学習院大学法科大学院特別招聘教授(2016年~)。2002年弁護士登録(第55期)。2005年早稲田大学大学院アジア太平洋研究科非常勤講師。2008年シカゴ大学ロー・スクール卒業(LL.M.)。2008年~2009年ポール・ワイス・リフキンド・ワートン・ギャリソン法律事務所(ニューヨーク)に勤務。2009年ニューヨーク州弁護士登録。2009年~2013年法務省民事局参事官室出向(2010-2013年法務省民事局商事課併任)(平成26年会社法改正の立案等を担当)。

●著書等
『平成26年会社法改正と実務対応〔改訂版〕』(商事法務、編著、2015)、『監査等委員会設置会社のフレームワークと運営実務――導入検討から制度設計・移行・実施まで』(商事法務、共著、2015)、『改正会社法下における実務のポイント』(商事法務、共著、2016)、『ビジネス法体系 企業組織法』(レクシスネクシス、共著、2016)、『会社法実務相談』(商事法務、共著、2016)等、著作論文多数。

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