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昭和ノスタルジーの「始点」突き止めた

昭和ノスタルジー解体

 各地の商業施設などで「レトロ商店」を見かける。おおむね2000年から10年くらいの間に続々と登場し、その多くはなお賑いが続いているという。平成の時代が終わろうとしている影響なのか、昨今はテレビでBSを中心に昭和歌謡を集めた歌番組などが増えるなど、昭和を懐かしむトレンドが一層強まっているようでもある。

 本書『昭和ノスタルジー解体』(晶文社)は、いわゆる「ゼロ年代」に始まり、世代を超えて高まりが続く「昭和ノスタルジー」ブーム成り立ちの背景を探ったもの。ブームの全容をつかむために、ゼロ年代に起きた現象の検証にとどまらず、さかのぼることを続けると、その「始点」はゼロ年代よりはるか以前に存在したという。

「渋谷系」愛好で疎外感

 著者は1972年(昭和47年)生まれ。東京大学卒業後、電通勤務を経て、研究生活に入り、東大助手などを経て現在は茨城大学人文社会科学部教授を務める。テレビCMなどについて論文を多く発表しており、コマーシャルのほかサブカルチャー(サブカル)ついての著作もある。本書のまえがきでは「小さい頃から昭和の文化が大好き。なかでもハマったのが、1990年代に音楽好きの世界を席巻した『渋谷系』」と述べている。

 自らの昭和への郷愁から、昭和ノスタルジーの議論に絡みたいと考えていた著者だが、自分が懐かしむ「90年代」はブームのキーワードにはなく、仲間外れにされている気分を募らせていたという。「なんとか私自身の経験を救い出せないか」。そう考えながら、世に出回っている昭和懐古を分析すると、そのほとんどが、ゼロ年代に起こった「昭和30年代ノスタルジー」について考えたものだということが分かってくる。

 もちろん昭和を愛好するブームはゼロ年代に限ったことではない。さかのぼってみると、70年代でも「近い過去の文化を愛好する営み」が認められた。そして昭和ノスタルジーの始点として行き着いたのは、マンガ「三丁目の夕日」(作・西岸良平)の連載が青年向け漫画誌で始まった1974年(昭和49年)という。この作品は、2005年に「ALWAYS 三丁目の夕日」として映画化され大ヒット、前後して、ゼロ年代の昭和ノスタルジーの大ブームになったものだ。

「アンノン族」もブームの原点に

 マンガ「三丁目の夕日」が懐古的なカルチャーへのドアを開けると、同作品の連載開始の少し前に創刊された2つの女性誌「an-an」「non-no」の愛読者である「アンノン族」は、当時の新・ディスカバージャパンブームに乗った両誌の特集で古都をめぐるなどして、ノスタルジックブームを加速。著者は、こうした現象を「ニューノスタルジー」の誕生とみる。

 70年代にはまた、マンガ、アニメ、怪獣ものや特撮などを愛好する若者たちのコミュニティーなどが生まれ懐古的な動きが強まり、のちの時代の「おたく」と呼ばれる、ディープな文化的かかわり方のルーツがつくられた。

 本書ではさらに、80年代、90年代、2000年代以降のカルチャー、サブカルシーンを追いながら、「ALWAYS―」で完成する「懐かしの昭和」を導いている。

 あとがきによると、本書完成までに7年が費やされた。年代ごとの「ノリ」や「ニュアンス」をつかむため、当時の雑誌を片っ端から読み込むなどしたため時間がかったものだ。巻末の「参考文献一覧」のリストをみると、まるで学術書のようだが、昭和のサブカルチャー史がよく分かる読み物に仕上げられている。昭和ノスタルジーのブームは「過去への憧憬であるノスタルジー以外にも、過去と出会う面白さに力点が置かれたレトロという言葉が使われていたし、古いセンスを笑いとともに受容する『アナクロニズム』も認められる」と著者。本書は、昭和がリアルではない世代にとっては、新鮮さを楽しめるにちがいない。

  • 書名 昭和ノスタルジー解体
  • サブタイトル「懐かしさ」はどう作られたのか
  • 監修・編集・著者名高野 光平 著
  • 出版社名晶文社
  • 出版年月日2018年4月17日
  • 定価本体2500円+税
  • 判型・ページ数四六判・380ページ
  • ISBN9784794969965
 

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