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4年制大学を出ても高卒レベルの仕事に... 閉塞するアメリカの労働者階級の現在

  • 書名 アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々
  • 監修・編集・著者名ジョーン・C・ウィリアムズ (著), 山田 美明 (翻訳), 井上 大剛 (翻訳)
  • 出版社名集英社
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2016年11月。アメリカ大統領選挙は波乱を生む結果となった。  
ドナルド・トランプ大統領の誕生――知識人やエリートたちはこの事態に慌てた。事前調査では民主党のヒラリー・クリントン候補が優勢と言われていたが、その予測は見事に外れた。

"Make America Great Again"というトランプの掲げたスローガンに動かされたのは、白人労働者(ホワイト・ワーキング・クラス)という人々だ。

『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々』(ジョーン・C・ウィリアムズ著、山田美明・井上大剛訳、集英社刊)は、アメリカのポピュリズムを支えるホワイト・ワーキング・クラスの実体に迫る一冊。
今回はホワイト・ワーキング・クラスについて、本書で解説文を執筆している慶應義塾大学SFC教授の渡辺靖さんにお話をうかがった。そのインタビュー中編だ。

(取材・文/金井元貴)

■トランプの主張はなぜ白人労働者層に響いたのか?

――日本から見ても「トランプ政権は大丈夫だろうか?」と思うことがありますが、そういう状況であってもトランプの支持基盤は揺るがないということでしょうか?

渡辺:そうでしょうね。トランプ大統領の主張は反グローバル、反エスタブリッシュメント(支配階級)、反リベラルが特徴的です。グローバル化によって、自分たちの地域の雇用の場だった工場が次々に海外に移転していき、雇用がなくなって地域が寂れた。今こそ、アメリカに雇用を取り戻そうという、トランプのアメリカ第一主義にWWCが共鳴したわけですね。

もともとトランプは民主党支持者でしたが、1980年代に民主党が公民権運動でマイノリティを支持したことから、共和党に一度寝返ります。ところが、共和党は最低賃金の賃上げを拒んだり、海外に雇用を輸出するなど、富裕層向けの政策を取ってきた。その共和党の主流派に対して不信感を抱いていたトランプは、「反エスタブリッシュメント」を掲げ、職業政治家に喧嘩を売るような形で選挙戦を展開していきました。

その中で、ホワイト・ワーキング・クラス(以下、WWC)がコアな支持層として定着していったということです。

――トランプ大統領の発信するメッセージは非常に強烈です。かつて、ここまでラディカルなメッセージを発信する有力な政治家はいたのですか?

渡辺:これまでも強いアメリカを取り戻すというメッセージを発した政治家はいましたが、実際に当選すると急に強いメッセージを発しなくなるんですよね。だから、WWCは裏切られてきたという感覚があるはずです。

一方、トランプ大統領は就任後もあまり発言にぶれがなく、公約に基づいて大統領令を発令していますから、簡単に考え方を変えないというところで信頼度は高いでしょう。WWCにとっては救世主に見えているのかもしれません。

――確かにアメリカに限らず、世界中で"ぶれない"政治家が求められていますからね。

渡辺:逆に言えば、トランプ大統領も支持層がはっきりしている限りは立場を変えることができません。NAFTAやTPP、パリ協定からの離脱はグローバルの枠組みから外れるという「反グローバル」のメッセージといえます。

――そこでエリート層から批判が上がっても、アメリカ国民の雇用を守ろうというメッセージを送り続けているわけですね。

渡辺:まさしく、そういうことでしょう。

■4年制大学卒でも抜け出せない... 再生産される階級

――WWCの特徴についてもう少しお話を伺いたいのですが、本書で「家族を大事にする」ということが述べられていました。アメリカ国民は家族愛が強いと思っていたのですが、WWCとエリート層では差があるということでしょうか?

渡辺:差というよりは、家族に対する価値観の違いがありますね。エリート層も家族は大切にしていますが、例えば男女平等であったり、子育ての夫婦分担は、エリート層の方が進んでいます。一方でWWCは伝統的な家族観を大事にしている。

エリート層が家族を大事にしていないというわけではなく、家族のあり方に対する価値観が異なるというべきだと思いますね。

――もう一点、ワーキング・クラスは地縁に基づくネットワークを築いています。近隣と結び付く関係ですよね。一方エリート層は土地にこだわらないネットワークを築いている点は特徴的だと思いました。

渡辺:エリート層は移動性が高いネットワークを築いていますよね。大学で出会った世界中の人と強いネットワークを築いていて、仕事もどこでもできる。名門大学になればなるほど世界で就職できるわけですから、職能的なネットワークがメインになってきます。

一方、ワーキング・クラスはそれほど競争力がないから、地域に根付いたネットワークを築き、地域密着型のライフスタイルになりますね。

――社会階級の問題を紐解いていくと、教育に帰結します。一度ワーキング・クラスに陥ったらもう抜け出せないというような状況にもあるように感じますが...。

渡辺:この本で、アメリカ人の3分の2が大学を出ていると書かれています。確かに統計的にはそうでしょうけど、4年制の大学を卒業した3分の1くらいは、少し前まで高卒の人が就くような仕事に就いています。つまり、アメリカにおいては4年制大学がかつての高卒と同じくらいの意味しか持たないという実態があるんです。

さらに、高校卒業でそのまま就職をするということになると、非常に不安定な雇用しか行き先がないためそこから抜け出すことができず、階級やライフスタイルが再生産されていきます。これがアメリカ内における階級間の断絶の大きな要因になっていると思います。

(後編に続く)

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