第5章は工房の若きマエストロ、ラファエロ。
上品な女性が、小さな一角獣を抱いています。一角獣は馬に似た伝説の生き物で、非常に獰猛(どうもう)。乙女の懐に抱かれて、初めておとなしくなるといわれます。この絵から、ラファエロがフィレンツェで出会ったある人の影響を読み取ることができます。
誰のどんな影響? 絵をクリックしてみましょう。
鎌倉女子大学 生涯学習センター講師 ●伊藤 淳
第5章は工房の若きマエストロ、ラファエロ。
上品な女性が、小さな一角獣を抱いています。一角獣は馬に似た伝説の生き物で、非常に獰猛(どうもう)。乙女の懐に抱かれて、初めておとなしくなるといわれます。この絵から、ラファエロがフィレンツェで出会ったある人の影響を読み取ることができます。
誰のどんな影響? 絵をクリックしてみましょう。
若い女性が斜め前を向いて座る、三角形構図。
ラファエロは『モナ・リザ』風の肖像画を、終生描き続けます。
さらにラファエロは、レオナルドが完成したといわれるスフマート技法も取り入れます。
しかし、このように最先端の技法を吸収しながらも、師のペルジーノより受け継いだ優美で上品な色彩は、彼の作品から消えることがありませんでした。
右の絵を覚えていますか? レオナルドが30代の頃に描いた『岩窟の聖母』(パリ版)ですね。
「聖母の画家」と言われるラファエロは、マリア、幼子イエスとヨハネの構図なども、レオナルドにならいました。
次ページのラファエロの作品でチェックしましょう。
母性溢れるマリアの視線や、単調にならないように工夫した着こなしなども、見どころです。
ボルゲーゼ美術館の『キリストの埋葬』は、ある母親が惨殺された息子を追悼するために依頼したもので、 1507年の作品。
様々な動きや表情の人々、生気の無いイエス・キリストを、洗練された筆致と豊かな色彩で表現しています。
教皇ユリウス2世は、この絵を見てラファエロをローマに呼び寄せたともいわれます。
その頃ミケランジェロは、教皇から石像制作を依頼されていました。この『聖家族』は、彼が天井画に取り組む前年に描いたもの。
聖母マリアは中央でヨセフの足の間に座り、幼子イエスを高く掲げています。
さて、ラファエロは『キリストの埋葬』制作にあたり、ミケランジェロのこの『聖家族』からあるヒントを得ました。
正解は3.Cのなかです。
失神する聖母を支える女性。これはミケランジェロの『聖家族』から、胴をねじるマリアの姿勢を角度を変えて取り入れたものだといわれます。絵をクリックしてみましょう。
1508年末、教皇ユリウス2世に呼ばれてローマに来たラファエロは、執務室の装飾を命じられました。
最初に手がけた部屋は、この『署名の間』。教皇の書庫であり、学習室です。
この部屋のテーマは、知恵、そしてギリシャ哲学とキリスト教神学との調和。ネオ・プラトニズムの思想が反映されています。
ミケランジェロがシスティーナ礼拝堂の天井画に苦心していた頃、ラファエロは『署名の間』2作目のフレスコ画に取り組みます。
堂々とした神殿風の建物に、古代ギリシャを代表する哲学者や科学者が勢ぞろい。中央は、プラトン(左)とアリストテレス(右)。ラファエロはプラトンの顔を、彼が尊敬してやまないある人物として描いています。
正解は1.レオナルド・ダ・ヴィンチです。
ラファエロはレオナルドを大哲学者にすることで、その人格と功績を讃えています。絵をクリックしてみましょう。 なお階段下で肘をついているヘラクレイトスの容貌は、ミケランジェロのものと思われます。
優しくこちらを見る愛らしい親子。この魅力的な作品は、「聖母の画家」ラファエロの創作活動の結晶ともいえましょう。
このころ彼は、サン・ピエトロ大聖堂の主任建築家に任命されます。そして3年後にはローマ古代遺物監督責任者に推挙されるなど、芸術家としては異例の富と権力を手にします。
しかしそのまたわずか3年後、ラファエロは突然の病で生涯を終えました。パンテオンに埋葬されている彼の石棺は、1836年に調査されています。
ところでこの『小椅子の聖母』にも、ミケランジェロから吸収し、昇華した描き方を見ることができます。それは、 こうすれば見えます。
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