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腹七分目長生き法 腹ペコになると現れる奇跡の「長寿遺伝子」 毎日30%カロリー減の食事がツライが...

   「腹八分目に医者いらず」という諺(ことわざ)が日本にある。控えめに食事をとることが健康にいいことは世界共通のようで、英語圏でも「Light suppers make long life」(軽めの夕食は長寿の源)という言葉がある。

   ところが最近は、「腹七分目」が長生きのもとになるという研究が相次いでいる。お腹をすかせた状態にすると、「長寿遺伝子」の働きが活発化して老化を防いでくれるのだという。

  • 小腹がすいたら野菜を食べよう
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サルの実験では70歳の「老人」が40歳に若返る

   日本における「腹七分目健康法」の第一人者である古家大祐(こやだいすけ)・金沢医科大学糖尿病内分泌内科学教授が2016年5月17日、都内で開かれた日本抗加齢医学会のメディア向けセミナーで、「カロリー制限は健康長寿への近道」と題する講演を行なった。そこで、1日に必要とされる摂取カロリーの70~75%の食事を続けることで、肥満や動脈硬化、糖尿病、アルツハイマー病などの老化現象にかかわる病気を防ぎ、寿命が延びる可能性があることを、最先端の研究を紹介しながら解説した。

   それによると、以前から寿命が数年のマウスやラットの実験では、食事のカロリーを30%減らすと長生きすることが知られていた。しかし、70~80年も生きる人間で実験して確かめるのは不可能だ。そこで、米ウィンスコンシン国立霊長類研究センターがアカゲザルを使って、1989年から実験を行なってきた。自由に好きなだけ食事をとるグループと、普通より30%カロリーを減らした食事を与えるグループに分け、健康状態を比較した。

   すると20年後の2009年、カロリー制限組は自由食事組に比べ、糖尿病の発症がゼロで、がんと心血管疾患の発症が50%低下した。また、2009年の時点で生存していたサルは、カロリー制限組が80%、自由食事組が50%だった。カロリー制限組は、体重が少し減っていたが、筋肉量はさほど低下せず、むしろ体脂肪の減少が顕著だった。何よりはっきりとした差が出たのは、顔つきや毛並などの外見だ。カロリー制限組は自由食事組に比べ、同じ年齢でも明らかに若々しかった。2011年6月12日に放送された「NHKスペシャル サーチュイン遺伝子」では、同じ27歳(人間でいえば70歳に相当)のサル同士の映像が映ったが、40歳と70歳くらいに違って見えた。

「長寿遺伝子」は健康バロメーター100項目を改善する

   なぜ、カロリーを減らすと老化現象が遅れるのか。古家教授によると、「長寿遺伝子」と呼ばれる「サーチュイン遺伝子」が重要な働きをする。サーチュイン遺伝子は、2000年に米マサチューセッツ工科大のレオナルド・ガレンテ博士らによって発見された。すべての動物が持っている遺伝子で、ふだんは眠っていて働かないが、飢餓状態になると活動を開始する。

   細胞内でエネルギーを作りだすミトコンドリアを増やし、細胞内の老廃物を除去する。また、細胞を傷つける活性酸素を排出し、細胞を修復して若返らせる。人体を工場にたとえると、古い機械装置を次々と更新する働きをするのだ。人間の健康度を測るバロメーターは70~100項目あるが、そのほとんどを改善するという。古家教授はこう語った。

「素晴らしい働きをしますが、この遺伝子のスイッチがオンになるのは飢餓状態になった時です。動物や人類の歴史は飢えとの戦いでした。食べ物がない状態が続いても生き延びられるように、危機の時にサーチュイン遺伝子が働く生体メカニズムが備わってきたのでしょう」

   必要カロリーの25~30%減ほどの「腹ペコ状態」が続くと、長寿遺伝子が「よし、私の出番のようだ」と眠りから覚めてくるというわけだ。古家教授は2011年、実際に人間で実験を試みている。30~60代の男性4人の協力を得て、1日に必要なカロリーを25%減らした食生活を7週間続けてもらい、サーチュイン遺伝子の活動状況を調べた。サーチュイン遺伝子が活動しているかどうかは、遺伝子が作り出す「サーチュイン酵素」の量を調べるとわかる。

   その結果、わずか3週間後にサーチュイン酵素の量が1.4~1.6倍に増加、7週間後には4.2~10.0倍にまで増えた。細胞にエネルギーを送るミトコンドリアの量も平均で44%も増加した。人間でもカロリー制限をすると、サーチュイン遺伝子が活発化することが裏付けられたのだ。また、4人の体重、体脂肪、内臓脂肪面積、血圧、中性脂肪、体内の炎症マーカー、インスリン値も測定すると、インスリン値以外はすべて改善していた。体全体が7週間前より健康になったわけだ。

   古家教授は最後に「最近の様々な研究で、カロリー制限によってリラックス効果があがり、睡眠や性機能まで改善することがわかっています。サーチュイン遺伝子を活性化させるには、男性なら1日の推定必要エネルギーである2400キロカロリーの75%の1800キロカロリー、女性なら2000キロカロリーの75%の1500キロカロリーに制限することをオススメします。加えて塩分を控えて運動を心がければ、必ず長生きにつながります」と語った。

カロリー制限だけでなく運動と組み合わせよう

   実は「腹七分目健康法」は、サーチュイン遺伝子発見よりはるか以前の1930年に、米コーネル大が「カロリー制限でラットの寿命が40%も延びた」と発表して以来、欧米で盛んに研究されてきた「夢の長寿法」なのだ。ラットや昆虫、犬などで成果をあげ、1990年代には米アリゾナ州の砂漠に宇宙船内を模した巨大な施設を作り、外部から遮断して人間を2年間にわたり「低カロリーの自給自足状態」で生活させる実験が行なわれた。しかし、実験を主導し「カロリー制限をすれば人間は120歳まで生きられる」と豪語した科学者自身が79歳で病死したこともあり、計画は打ち切られた。

   また、実際問題として、毎日の食事から30%近くもカロリーをカットすることは強い意志と栄養バランスの知識が必要だし、栄養面から疑問視する専門家も少なくない。元老人総合研究所副所長の柴田博・医学博士は、著書の『病気にならない体はプラス10kg』の中で、「現代の日本人のエネルギー摂取量は途上国並みに低い。カロリーや肉を摂ることに憶病になり、逆に低栄養から健康を損なっている」という立場から批判的だ。

   また、2006年に米国で行なわれた研究では、1年間にわたってカロリー制限をして体重を減らすと、血糖値などは改善されるが、骨密度を減らすという結果が出た。将来、骨そしょう症になる心配があるという。肥満ではない平均体格の人が行なう場合は、カロリー制限だけでなく、運動を組み合わせることが大切なようだ。

   古家教授も金沢医科大のウェブサイト「教えて!ドクター 腹七分目で若返ろう」の中で、「運動をするとサーチュイン遺伝子が活性化することも明らかになっています。米国の研究ではカロリーを12.5%カット、運動で消費カロリーを12.5%増やすと、カロリーを25%制限したのと同じ効果があることが確かめられています」と語っている。