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【男と女の相談室】 「いいね!」はダイエットに「最悪ね!」 SNSが10代の脳に危うさもたらす

   電車の中や歩きながら......。フェイスブックやツイッターなどのSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)は、やらない若者を探す方が難しいほど。

   しかし、スマートフォン画面を見ながら「いいね!」を何度も押し続けていると、脳に「悪いね!」という健康被害が出ることは最新研究で明らかになった。それだけではない。食事写真の投稿もダイエットを台無しにするという。

  • 「いいね!」中毒に気をつけよう
    「いいね!」中毒に気をつけよう
  • 「いいね!」中毒に気をつけよう

若者たちがネット上で付和雷同する理由は

   若者の脳への悪影響をまとめたのは、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のチーム。米の心理学誌「Psychological Science」(電子版)の2016年5月31日号に発表した。

   研究では、13~18歳の若者32人に、それぞれ40枚の写真をSNSに投稿させ、自分で「いいね!(like)」を押し、受けとった「いいね!」の数を見てもらったりした。その作業の間、頭に装着した機能的MRI(磁気共鳴画像装置)を使い、脳の各領域の反応を分析した。実際は研究者が「いいね!(like)」の数を操作していたが、若者たちはそのことを知らなかった。また、若者たちは全員が見知らぬ者同士だった。

   その結果、次のことがわかった。

   (1)実験中に特に活発だった脳領域の1つが、「報酬回路」と呼ばれる神経系統だった。欲求が満たされた時に快感を得る部位である。チョコレートをほおばった時やおカネをもらった時などに刺激を受け、「快楽ホルモン」と呼ばれるドーパミンが分泌され、心地よい気分に満たされる。自分が投稿した写真に多くの「いいね!」をもらえばもらうほど、「報酬回路」が活発化した。

   (2)若者たちは、写真に「いいね!」を押すかどうかを決定する際、すでに付いている「いいね!」の数に強く影響を受けていた。全く同じ写真だが「いいね!」の数が多い物と少ない物を、それぞれ半数ずつの若者に見せると、「いいね!」の数が多い方に自分も「いいね!」を付ける確率が非常に高かった。

   この結果について、研究チームのミレーラ・ダプレット博士は「情報に対する10代の若者たちの評価は、たとえ見知らぬ者同士の間でも、仲間の支持が多いか少ないかによって変わることがわかりました。SNSでは、脳レベルでも実際の選択でも仲間に同調する傾向がはっきりと出ました。付和雷同する傾向があるのです。実生活でも、自分にとって重要な人物が何かを支持すると、それに追随すると予想されます。子どもが危険な人物の影響を受けないよう、親は注意する必要があります。昔は、親は子どもの友だちが誰かわかりましたが、何百人もフォロワーがいたら危険な人物が誰か知るすべはありません」と警鐘を鳴らしている。

麻薬並みの快楽ホルモンで「いいね!」中毒に

   もう1つ研究チームが危惧するのは、「いいね!」を受けとれば受けとるほど「ほめられている」「人気を集めている」という満足感が高まり、「報酬回路」が活発化した点だ。「報酬回路」はマラソンを完走したり、長期プロジェクトを成し遂げたりした後などに刺激が多くなる。そのほうびとして快楽ホルモンのドーパミンをもらい、それが次の行動への意欲につながる。

   ところが、SNSの場合は、「いいね!」を押すだけの非常に小さな労力ですぐさま報酬が与えられる。「パブロフの犬」のようにクリックを押し続ける「いいね!中毒」になる心配があるという。

   サルの脳の報酬回路に電極を入れた実験では、サルがボタンを押すと電流が流れてドーパミンが分泌されるようにすると、サルはとめどなくボタンを押し続けた。それほどドーパミンの刺激は強いのだ。覚せい剤やモルヒネ中毒患者もこのドーパミンの過剰分泌が明らかになっている。

   最近、SNSに料理の写真を投稿する女性が増えているが、食事写真を投稿したり見続けたりすると肥満になるという研究がある。カナダ・トロント大学の精神病医学者ヴァレリー・テイラー博士が2013年5月、米国肥満学会で、自分が診てきた患者の経験から「SNSに食事の写真を投稿する行為は、摂食障害につながる危険性がある」と警告した。

   テイラー博士は「毎回毎回、食事のたびに写真をアップしている人は、見ている人をうんざりさせるばかりか、自分が深刻な心理状態に追い込まれていることを認識する必要があります。食事の写真を撮ることが最優先課題になり、食事の内容、栄養、量を考えなくなり、過食や拒食症になる可能性があります」と述べた。

   また、食事写真を見すぎることも健康に悪影響を与えると指摘した。豪華で美味しそうな写真ばかり見ると、食欲がわき、つい小腹を満たそうと余計な間食をする。逆に、写真を見ただけでお腹がいっぱいになり、食欲がなくなる人もいる。いずれにしろ、過食症や拒食症になる心配があり、体にいいことは何もないというわけだ。

1日6~8時間も食事写真を見て10キロ増えた女性

   実際、欧米ではインターネット上に食事写真をアップする行為を「フード・ポルノ」と呼び、問題視している。セックスの面で、実際に行動をしないで、ポルノ写真ですませる弊害と同じような健康被害があるというわけだ。

   2013年10月23日放送の「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ)で、このフード・ポルノ問題を取り上げ、内科医で医療評論家のおおたわ史絵さんが、こう語っていた。

   「本来、食べ物は、目の前に料理が出てきて、食べて、幸せになる。それが1つの完結になるわけです。ところが、食べることより、写真を撮ったり見たりすることが目標になると、『食』に対するゆがんだ価値観が植え付けられてしまいます。実際に日本でも、1日に6~8時間ぐらいSNSの食事写真を見続けて、2年間で10キロ増えた女性の例が報告されています」

   「げ~!」というどよめきがスタジオ中にあふれた。「それって、1日に6~8時間見る段階でヤバクない?」という声も。