MBAなんて要らない?ハーバードが教えてくれなかった「3つのこと」

2009/5/27 11:34

   僕と出口(治明)が二人で立ち上げたライフネット生命は5月18日、開業1周年を迎えました。思い起こせば、苦労と新しい発見の連続でした。ハーバードでMBAを取得して意気揚々と帰国した僕でしたが、リアルビジネスについては知らないことばかりだということを思い知らされたものです。「ハーバードMBAが教えてくれなかったこと」はたくさんありました。そのなかで特に心に刻まれた「3つの教訓」についてまとめてみたいと思います。

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1.重要なのは、戦略や戦術の答えを見つけることではない。どれだけ戦略通りに人に動いてもらえるかで勝負が決まる

   立ち上げ準備をはじめてから実際に開業するまでの約2年間、ライフネットが成長するための戦略を必死に考えました。その結果、開業時点では、自分なりに納得がいくプランを描くことができました。

   しかし、いざ営業をスタートしてみると、同僚たちはなかなか自分が思うように動いてくれません。最初は「何で分かってくれないのだろう…」と悩んだものですが、ある日、ふと気がつきました。自分が2年間ずっと考え続けてきたことについて、その背景や狙い、意味合いを伝えるために使った時間は、わずか数時間に過ぎなかったのです。

   僕が好きな言葉に、次のようなものがあります。

「こちらが言ったつもりでも、相手に聞いてもらえたわけではない。相手に聞いてもらえても、聴いてもらえたわけではない。聴いてもらえても、理解してもらえたわけではない。理解してもらえても、賛成してもらえたわけではない。相手が賛成していても、納得して動いてもらえるわけではない」

   MBAで学んでいた頃は、ビジネスは「答え」を見つけることが難しく、そこで勝負が決まるものだと思っていました。しかし実際には、正しい答えが見つかったとしても、それを大勢の人間に納得して実行してもらうためにまた遠い道のりがあり、その実行の方がずっと多くの時間と労力が必要となるのです。

   仮に100点満点の答えを見つけることができても、その1割しか実行できなかったら10点にしかならない。他方で、20点の答えであっても、一丸となってその10割を実行できれば、2倍の20点の結果が出せるわけです。

2.顧客を実際に購買行動に動かすためには、ロジックと同じくらい、共感・共鳴が必要

   インターネット専業の保険会社であるライフネット生命にとっては、ウェブサイトが唯一の店舗であり、かつ従来の営業職員の機能を果たすチャネルとなります。

   そこで、生保商品を選ぶ上で必要となるコンテンツやシミュレーション機能などを、余すことなくライフネット生命のホームページ上に実装しました。これと「大手生保の保険料を半額に」という経営理念のもとで創られた商品さえあれば、契約者は殺到するのではないかとも期待していました。

   しかし、実際に営業を開始してみると、お客様の足取りはなかなか重いものでした。また、大半はデータやシミュレーションよりも、「ランキング」や「プロが選ぶ1位!」といった感性的な要素を参照して行動していました。

   そこで学んだことは、MBAマーケティングで学ぶ「提供価値」といったロジックと同じくらい、「言葉では説明できないけどなんかいい」という感性――それは「安心」だとか「共感・共鳴」という気持ちだったりするのですが――それらに訴えるものがなければ、実際にアクションを誘発して商品を買ってもらえないということです。

   もちろん、感性だけに訴えかけたマーケティングでは長続きはしません。しかし、移ろいやすい生身の人間を消費行動に移すためには、左脳やロジックだけではなく、それと同じくらいに右脳や感性を揺さぶる施策を打っていかなければならないということを、痛感させられたわけです。

3.60代になったときに30代の若手と組んで新しいことに挑戦できたら、ビジネス人生はもっと充実する

   MBAでは、理想のキャリア像や自分にとっての「成功」「幸せ」について、青臭い議論をよく行いました。その中で自分なりに得たのは、「キャリアは旅路のようなものである。結果を早く追い求めるのではなく、その過程の一瞬一秒を満喫しなければならない」という考えです。それまではとにかく生き急ごうと考えていたふしもあったので、これは大きな糧でした。

   しかし、それはあくまでも「今日」のことだけを見据えているのであり、自分が実際に60代にさしかかったときのイメージは持っていませんでした。それが、自分の父親と同じ年である出口と二人でライフネット生命をはじめてから、自分がどのようにキャリアのピークを迎えたいか、明確にイメージすることができるようになりました。

   多くの人は60歳前後で定年を迎え、そこからはゴルフをしたり旅行をしたり、静かに余生を過ごします。しかし、実際に多くの60代と仕事をしてみると――当社の従業員の1割近くは元気な60代です――まだまだ夢も余力もいっぱいあり、30代の若手と力を合わせることで、ベテランの経験や知恵と若手の行動力を活かしたビジネスを創っていけることを学びました。そのような環境にいる60代の人間は、老けこむことなく、むしろ日に日に若返っていくようにすら見えます。その挑戦する姿には、ロマンと熱いものを感じます。

   ビジネススクールでは明確に描くことはできていなかったのですが、今の僕のキャリアの目標は明確です。自分が60代になったときに、30代の若手のパートナーを探し、再び新しいベンチャー企業を創って、自分のライフワークに挑戦したいのです。

   ハーバードMBAでは教えてくれなかった、そんな大切なことを、ライフネット生命を開業してからの1年間で強く心に刻むことができました。

岩瀬 大輔

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岩瀬大輔(いわせ・だいすけ)
ライフネット生命保険・代表取締役副社長。1976年生まれ。幼少期をイギリスで過ごしたのち、開成高校を経て、東京大学法学部卒業。在学中に司法試験合格。ボストン・コンサルティング・グループ、リップルウッド・ホールディングスを経て、ハーバード経営大学院(HBS)に留学。日本人で4人目となる上位5%の優秀な成績(ベイカー・スカラー)を修めた。帰国後、元日本生命の出口治明氏と二人三脚で、今までの常識を打ち破る新しい生保会社「ライフネット生命保険」を立ち上げ、2008年5月に営業を開始した。近著に『東大×ハーバードの岩瀬式!加速勉強法 』(大和書房)、『超凡思考』( 幻冬舎、伊藤真氏との共著)。
「生活者にとって便利でわかりやすく、高品質な生命保険サービスを提供する」という理念のもと、インターネットを主要チャネルとして、新しい生命保険を販売している。既存の保険会社に頼らない「独立系の生命保険会社」として戦後初めて免許を取得し、2008年5月に営業を開始。業界のタブーとされた「保険料の原価」を開示するなど新しい試みに挑戦している。
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