2024年 4月 24日 (水)

内向的で打たれ弱い人間に「芸能プロ」は無理だった

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   人が大勢集まる場では心の「石ころ帽子」(かぶると人に気にされなくなるドラえもんの道具)をかぶってしまうような内向的でインドア派の私が、ちょっとしたボタンの掛け違いでうっかり内定してしまった芸能プロダクション。そこでは、「帽子」を力ずくではぎとられるような日々が待っていました。

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苦痛で仕方なかった「大きな声で先輩に挨拶」

「現場では優しく教えてる余裕なんてない。怒鳴り声は当たり前」
「自分からアピールして顔を覚えてもらわないと何も始まらない」
「飲み会も仕事のうち」

   内定者の集いに総務の人が連れてきた先輩社員たちの話からは、私の出来ないことばかりを要求する仕事内容がうかがえて、実は入社前から既に「辞めたい」という気持ちは顔を出していました。それでも、せっかく受かったのだから挑戦する前に逃げるべきではないという生来の真面目さと、採用したからには私の中に何らかの向いている要素を会社側が認めてくれたのだろうというシュガーな期待によって、なんとか気持ちを奮い立たせて4月を迎えたのでした。

   研修初日、総務から課せられたのは「出社してくる先輩社員一人一人に自己紹介をして回る」というタスクです。社会人として当然の行為なのでしょうが、"人に声をかけられない病"の私には、これがまず、岩のように重くのしかかりました。誰か来る度に心臓が縮みあがり、気付かなかったことにしたい衝動に駆られたものです。

   大きな声で挨拶をすることもまた、おそらく普通の人が千人の観衆の前で演説をするのと同じくらいの緊張を強いる行為です。決死の覚悟で「おはようございます…」となんとか絞り出しては「声が小さい!」とやり直しを命じられ、半ベソで挨拶し続けたことを思い出します。

   希望通り映画制作部門に配属されてからは、海外スタッフのアテンドなんて仕事もありました。確かに履歴書上、英語ができる感じにはなっていますが、それはあくまで読み書きの話です。声をかけられない、挨拶ができない私に、「Hi!」なんて大きな声じゃなきゃ成り立たない言葉(実際相当頑張らないと「はい」という返事に聞こえます)を口にしながら、握手したりハグしたりなんて到底ムリな相談です。会社のえらい人たちが次々ともてなしにやってくる合間に声をかけ、次の場所に連れて行く…。スケジュールを書いたカンペを渡すから勝手に動いてよ、と泣き叫びたくなる2日間でした。

ささいなことで怒鳴られては落ち込んだ

   結局、最初の会社の耐久期間は2カ月半。

   そんなわずかな期間しか働いていない分際で分かったようなことは言えませんが、マネージャーにしても映画制作スタッフにしても、芸能界の仕事には特定の役割がなく、現場で起こることに対応するために「居る」のが役割、といった側面があるように思います。そして私はそれが何より苦手でした。

   「居る」間にすべきは、周りの人との会話なのでしょうが、それがままならずに顔がこわばり、たまに用事を言いつけられると、動揺と経験のなさから満足にこなせない。現場にいる間は常に居心地の悪さに悶絶し、なんだか体がかゆくなるのでした。

   誰でもできることができない私には、もう一つ「打たれ弱い」という、現場仕事では特に致命的であろう欠点もありました。

   ケータリングで注文した料理の甘いものとしょっぱいもののバランスが悪いとか、車に荷物を積む順番が違うとか、用意した文房具が先輩の好きな色じゃなかったとか。ささいなことで怒鳴られるたびに、どうすれば間違えずに済んだのだろう、あの人はなぜ文房具一つであんなに怒っていたのだろう、そしてせんべい一つでなぜ自分はここまで落ち込んでしまうのだろうと、深く考え込んでしまうのです。

   片や同期の体育会系男子は、ある女優の家のポストに映画の台本を届けるはずが、間違えて隣の部屋のポストに入れてひどく怒られた時も、まず「すいません!」と大きな声で頭を下げ、次の瞬間には笑って仕事をしていました。本当は気にしているのかもしれないと心配して後で聞いてみたところ、既に忘れているようで「やっちゃったものはしょうがないじゃん?」とカラッと一言。目から鱗が落ちました。彼は今も、とある大物タレントのマネージャーをしています。

鈴木松子

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鈴木松子
都内の某私立大学を卒業後、20代の7年間に、芸能プロダクション→旅行会社→映画雑誌編集部→新聞系制作会社と転職を繰り返し、今また新しい会社で働き始めたアラサー女。せめてコラムの連載中は、同じ会社に勤め続けられるといいのだが・・・
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