アベノミクスで賃上げされる人、されない人

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   アベノミクスのおかげで、例年以上に春闘が注目されている。総理、金融大臣が揃って経団連に賃上げ要請するなど、今年の自民党はまるで在りし日の故・民主党を見るかのような労働者寄りの姿勢に終始している。

   これから労働者の賃上げは進むのだろうか。実際に「安倍総理にこたえる」と言って社員の賃上げを明言したローソンを例に考えてみよう。

正社員と非正規の格差は拡大する

一年を通じて勤務した給与所得者の平均賃金推移(2001年を100とする。国税庁「H23民間給与実態統計調査」より)
一年を通じて勤務した給与所得者の平均賃金推移(2001年を100とする。国税庁「H23民間給与実態統計調査」より)

   まず、ローソンで賃上げ対象となったのは、正社員3300人ほど。店舗のオーナーや約20万人のバイトは関係ない。仮に安倍総理のいうようにデフレ脱却して、これから物価が2%ほど上昇し続けたとすると、3300人の正社員は(ある程度は)それにつられて昇給させてもらえるだろうが、パートは実質的な賃下げとなる。

   同じことは日本中の正社員と非正規雇用、大手と中小下請け企業の間で起こるだろう。要するにアベノミクスというのは、非正規雇用や下請けの労働者を賃下げして企業活動を後押しするというものなのだ。経営者にとってはありがたい話だろうが、社会の格差は間違いなく拡大することになる。

   ひょっとすると「ある程度景気が良くなれば、労組も非正規のために少しはお金を回してくれるんじゃないか」と思っている人もいるかもしれないが、そんなお人よしな労組なんて存在しない。

   筆者の知人に、大手広告代理店とテレビ局社員の共働き夫婦(世帯年収3000万円超)がいるが、口癖は「ボーナスが下がって生活がとても苦しい」である。人間は永遠に満足しない生き物なのだ。

   アベノミクスをもろ手を挙げて歓迎する人の中には、どうもそのためのコストを負担させられる側の人が多いように見えるのだが、気のせいだろうか。

たとえ景気が良くなっても、多くの人の賃金は上がらない

   とはいえ、「賃下げ効果で企業業績が回復→投資も増えて好況に→賃上げ」というルートでの賃上げも考えられる。ただ、仮に景気全体が良くなったとしても、筆者は今以上に実質賃金が上がる人は少数で、ほとんどの人間の実質賃金は横ばいかむしろ下がると見ている。

   「なんで景気が良くなるのに賃金が下がるの?」という人は、6年ほど前を思い返してみるといい。当時、2002年に始まった好景気が69か月も継続し、70年代のイザナギ景気以上だともてはやされた。

   だが、それだけ景気が良かったと実感していた人はどれだけいるだろうか。統計を見ても、イザナギ越えの間中、ずっと日本人の賃金は下がり続け、年収300万円未満のワーキングプアの数は増え続けている。

   理由は簡単で、海外で安くやってもらえる仕事に(いくら景気が多少良くなったからと言って)企業は高いお金は払わないからだ。「企業はけしからん!」と思った人は、企業を個人に置き換えて冷静に考えてみよう。

   「国産にこだわったのり弁当1000円」と、輸入食材で作った見た目の変わらないのり弁当300円が並んでいたら、誰だって後者を買うだろう。そういうわがままな消費者を満足させるためにも、企業は出来るだけ人件費を安く抑え、人件費の安い国にじゃんじゃん仕事を移し続けるしかないのだ。

   当時から産業構造の転換を促進するような改革はほとんど行われていないので、今回もまったく同じことが起こるだろう。

「誰かが何とかしろ」と叫んでいる暇はない

   とはいえ、本当に景気が良くなれば少なくとも企業や資産家にとっては喜ぶべき話なので、筆者もアベノミクスを全否定はしない。「6年前はボーナス10カ月分貰ってました!」という付加価値の高い人や株屋にとっても、また景気の良い時代になるかもしれない。

   ただ、こと賃上げに関しては、多くの人が期待外れに終わるだろう。というわけで、賃上げして欲しかったら「誰かが何とかしろ」とネットで叫ぶのではなく、その時間を使ってお勉強するというのが、たぶん最も確実な給料アップの近道だ。(城繁幸)

※もっとも、自己防衛としての個人勉強だけでなく、正規と非正規の格差にメスを入れる労働市場流動化や再分配のための社会保障制度改革を進める運動に参加することには意義があるだろう。
※上記文中で、筆者は「仮に」という言葉を二つ用いている。「物価も上がって景気も良くなったけど賃金はほとんど上がらなかった」というのはまだいいケースで、物価だけ上がったけれども景気は横ばいというケースや、そもそも物価も上がらないというケースも十分ありえると考えている。その場合、誰も賃上げされないのは言うまでもない。
人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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