スマートフォンで職場を「常時監視」 社長の提案に店長不満顔

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   最近、遠隔地から監視カメラを簡単に操作できる「ネットワークカメラ」の性能が上がり、普及しているという。その用途として職場で従業員の行動を確認することも考えられており、実際に使っている会社も増えているそうだ。

   ある会社では、店員の行動管理にネットワークカメラを使おうと社長が言い出した。各店舗の店長は黙って聞いていたものの、本音は「店長に任せられないのか」と不満を募らせているらしく、総務担当が板ばさみにあっている。

サボリ防止に休憩室などに設置する案も

――関西で十数店舗を展開する小売業の総務です。社長の最近の悩みは、業績アップに向けて「店舗スタッフの質が上がらないこと」です。

   これは先日の店長会議でも問題となり、社長から「店舗の売上だけでなく、スタッフの普段の行動も評価の対象にしたい」という提案があがりました。

   その方法として「日報」の充実に加え、「店内カメラの活用」という案が検討されています。これまでも万引き防止の目的から、店内に防犯カメラを設置していましたが、この数を増やして、店員の評価にも活用しようというものです。

   いまどきの監視カメラはネットワーク対応で、スマートフォンで社外からも見られるようです。遠隔操作で首振り撮影や音声録音もできるらしく、専務(社長の奥さん)も導入に大賛成。サボリ防止のために休憩室や倉庫などに設置する案も出ました。

   その場では社長の提案に文句を言うものはいませんでしたが、当然のことながら会議後には不満が続出しました。「なぜ店長に任せられないのか?」「常に監視されていると思ったら仕事がやりにくい」といったものです。

   「休憩所まで監視するなんて、法的に問題があるんじゃないの?」という声もありました。ワンマン社長のことなので、簡単に方針を変えることはないと思いますが、担当としてせめて留意点だけでも確認しておきたいです。何か問題はあるでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
合理的な理由であればプライバシーの侵害にならない

   監視カメラを職場に導入する例は、すでに多くあります。盗難防止のために倉庫に設置したり、不正監視のために工場内に設置されたりしています。小売店でカメラを設置するのは、万引き防止だけでなく、レジや金庫で従業員が不正なことをしていないかチェックするためでもあります。合理的な理由であればプライバシーの侵害や違法行為にはつながりませんが、トイレや更衣室への設置は避けた方がいいでしょう。

   不正をチェックするということは、逆にいうと「不正をしていない」ことの証明にもなります。例えばレジのお金がなくなったときに、自分ではないという証拠が残るということです。セクハラやパワハラも映ってしまうので、従業員の身を守るために活用されるという側面もあると思われます。「サボリがばれるから設置するな」というのもおかしな話ですし、何もやましいことをしていないのであれば、息が詰まるということもないはずです。

臨床心理士・尾崎健一の視点
どこまで実効性があるのか。細かく監視する弊害もある

   すでにサボリや窃盗が相次いでいるならともかく、店内での行動管理のために監視カメラを使うことで、目に見える効果がどこまで期待できるでしょうか。スタッフの行動の質を高めるには、あるべき行動の中身について具体的に検討し、店長のマネジメントを変えた方が実効性が高いと思います。

   なにより人間は、やるべきことを細かく規定しすぎたり、管理されすぎたりすると、それしかやらなくなります。創造的に動かなくなるし、モチベーションが上がらないので仕事の質の向上も望めません。未来工業創業者の山田昭男氏は、著書の中で「不正をしないように社員の監視を厳しくしていくと、絶対にその裏をかこうとするものなんだ。人間とはそういうものだ。しかも、不正を監視するコストがもったいないよ」と述べています。ただし一定期間の記録を分析し、結果を公表して改善に活かす目的であれば、一時的なカメラ導入は理解を得られるかもしれません。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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