「過労死防止法」で過労死はなくなるか 「微妙な気分」にさせられる理由とは

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   先日、衆議院で超党派議員の手により、過労死防止法案が可決された。なんでも、過労死を防ぐためにこの問題に対する国の責任を初めて明記し、過労死の実態や防止策の調査を行い、過労死防止対策協議会を設けたり、民間団体を支援したりするという内容だ。

   はたして本法案は具体的な効果を上げることが出来るだろうか?

そもそも、過労死はなぜ起こるのか

   その前に、過労死が生まれるメカニズムを整理しておこう。

   企業が雇用調整する手段としては2種類の方法が考えられる。世界的にみて一般的なのは、従業員の人数で調整するというもので、忙しかったら人を雇い、暇になったら誰かをクビにするというものだ。当然ながら流動的な労働市場が前提となり、必ずしも雇用が安定しているとは言えないけれども、少なくとも普通の人が倒れるまで働かされることはない。

   もう一つは、すでに働いている従業員の労働時間で調整するというもので、忙しければ残業時間が増え、暇になったら定時で帰るというスタイルだ。こちらは(既に正社員の椅子に座っている)従業員の雇用はとても安定する一方で、忙しい時は月100時間でも200時間でも残業させられることになる(建前上の法律論は別として)。

   もちろん、終身雇用の日本は後者であり、いっぱい残業できるように規制も緩やかにしてある。いうなれば過労死は終身雇用の副産物みたいなものなのだ。だから、過労死をなんとかしたいなら、終身雇用自体にメスを入れるしかない。

   そういう観点から本法案を眺めてみると、過労死防止月間や調査委員会の設置だの、白書を毎年作るだの、見事に本質を回避した内容であるのがよくわかる。

残業の長さではなく、働く人の数で雇用調整を

   「彼らはそうした事情を知らないからだ」と思う人もいるかもしれないが、筆者にはとてもそうは思えない。というのも、上記に述べたような構造的な過労死の原因は、何も筆者の専売特許ではなくて、それこそ何十年も昔からいろいろな識者が指摘してきたことだからだ。

   実際、何十年も昔から過労死は日本で発生してきたし、国連やILOといった国際機関からもたびたび是正勧告を受けている。ググってもらえばわかるが、今では『Karoshi』は英語として定着してしまっているほどだ。ちなみに筆者自身、いくつもの政党にこの問題を指摘し、今回の超党派議員の先生方の中にも、その話を聞いている人はいる。

   「もちろん、これから真に有効な法改正をする。そのための準備段階だ」というのであれば、それはそれで立派なことだ。筆者も心から応援したいと思う。でも、今のところ筆者は、微妙な気分で本法案を眺めている。

   そもそも過労死に賛成な人間なんているわけがないのだから、「過労死反対」という掛け声ほど幅広い有権者に訴求できるスローガンも他にない。かといって、自分のプロフィールに「過労死防止超党派議連の一員として、法案可決に尽力」と書きたいがために、遺族を引っ張り出し、命に係わる案件に便乗した議員がいるとは、筆者も思いたくはない。

   そのためにも、重要なのはその先の一歩だ。残業の長さではなく、働く人の数で雇用調整させるために、必要な法改正とは何か。道は既に示されている。(城繁幸)

人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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