就活殺人事件のナゾを解け 「相棒」刑事が追い詰める「自己PR」のワナ

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   今回のテーマは前回に続いて自己分析です。

   前回は肯定派・否定派双方の主張や背景を比較したうえで最適である進め方を見ていきました。

   この過程で、採用担当者が自己分析をどう見ているか、その中で自己分析を元とする自己PRについて「一応は聞く」が多数。この「一応」とは?それと、就活生の間でよく言われる「盛る」はどこまで有効かを見ていきます。

経歴詐称までは行かないものの・・・

いったい何が起きたんですか?
いったい何が起きたんですか?

   「盛る」とはエントリーシート・履歴書で自身の学生時代等をよく見せようとする行為の就活スラングです。

   もちろん、所属大学や取得した資格などを詐称する、というところまでは行きません。

   具体的には、

・サークルに入っているだけ→サークルで副部長
・20人のサークルで部長→200人のサークルで部長
・自転車旅行で日帰り旅行が趣味→自転車で日本一周
・アルバイトでホール係→アルバイトでホール係のリーダー
・ボランティア活動を見学して話を聞いただけ→井戸掘りのボランティア活動に明け暮れた

   まあ、ウソと言えばウソだし、でも、経歴詐称までは行かないギリギリのところ、これが「盛る」です。

   就活カウンセラーによっては、この「盛る」を

「経歴詐称ではないから構わない」

として勧める方もいます。それから、学生も、

「平凡な経歴や学生時代よりは多少でも目立った方がいい」

として、この「盛る」を積極的に活用する方が一定数います。

   まあ、学生時代の経歴など採用担当者は確認しようがありません。そこで、学生はたとえば自転車旅行なら日本一周をした学生に話を聞く、そうした学生のブログを読むなどして自身の経験であったかのように話すわけです。

「自己PR」が相棒シーズン12に登場

   「盛る」の例で最後に出した「ボランティア」は、ある人気ドラマのネタにもなりました。そのドラマとは「相棒」シーズン12第5話「エントリーシート」です。

   就活中の学生の変死体が発見され、特命係の2人が捜査を始めます。

   当初は友人や元恋人が疑われます。野暮を承知でネタバレを書きますが、犯人は被害者の第一志望企業の面接担当者でした。

   この社員の所属企業、かつ、被害者の第一志望企業だった総合商社は社長がボランティア活動に熱心でした。そのことを知った面接担当者は学生時代、旅行先でボランティア活動を見学。その参加者から井戸掘りの大変さを聞き出します。

   そして、帰国後の就活では、井戸掘りのボランティア活動をあたかも自身の経験であるかのように話し、第一志望企業である総合商社に内定、入社します。

   さらに、入社後はそのボランティアの話がきっかけで社長の娘と交際、結婚寸前まで行っていました。

   ところが、そこに被害者の学生が選考に参加、犯人は面接担当者として顔を合わせます。幸い、自己PRは井戸掘りボランティアではなく、他の活動についてでした。評価は抜群で内定が出そうになります。

   犯人からすれば、被害者が入社すれば自分のウソがいつかはばれてしまいます。そうなれば、社長の娘との結婚も破談、何よりも会社にいられなくなります。そこで、犯人は被害者に入社を諦めるよう迫りますが被害者にそれを断られ、発作的に突き飛ばして殺害に至ってしまいます。

   社長の趣味を話せば面接で有利になるのか、などいくつかツッコミどころはあります。とは言え、全体を通して見ると、現在の就活事情をうまくまとめた、「相棒」らしい良作品になっています。

「入社後も平気でウソをつきかねない」との見方も

   自己PRをどこまで「盛る」か、ほとんどの採用担当者は異口同音で否定的に話します。

   つまり、サークルなら平部員だろうが副部長だろうがどうでもいい。学生が大したことない話と感じていても、学生の素の姿を見て、一緒に働けるかどうかを判断したい。

   「盛る」でもウソでもいいから、いいところを見せてくれ、と話す採用担当者はほとんどいません。

   さらに辛らつな採用担当者はこうも話します。

「『盛る』でもウソでも話したいというなら、それはそれで構いません。ただし、その話、入社してから定年退職するまで30年だか40年だか、ずっと突き通す自信があれば、ですが」

   もちろん、これはそんな自信などあるはずがない、との裏返しによるもの。

   序盤の面接ではウソが判明しなくても、中盤以降の面接で掘り下げて質問したり、面接前にちょっと検索したりすれば、ウソかどうかは大体判明する、と多くの採用担当者が話します。

「『盛る』も多少ならまだ見逃せますが、やってもいない経験をしたと話す『盛る』だと、入社後も平気でウソをつきかねないので、むしろ落としていきます」

   こう話す採用担当者もいました。

   「相棒」では、ウソがばれた犯人に杉下右京警部が語ります。その内容は、多くの採用担当者の言っているものと変わりません。

「たとえ嘘がばれなかったとしても、あなたは幸せになれなかったと思いますよ。偽りで始まったものは、その後もずっと偽りの人生でしかないのですから」

自己PRでダメになる必敗パターンとは?

   「相棒」のネタにもなった自己PR。この自己PRについて、段々とバカバカしいと思う企業が増えてきました。

   取材を進めると、必勝パターンの逆、必敗パターンが自己PRには存在することが判明します。

   それは、「学生時代に頑張ったこと」など他の質問でも自己PRを絡ませることです。

「自己PRは自己PRで質問をして聞いているのに、それ以外の質問にも自己PRを絡ませるのは、かなりうざったい。聞かれたことをきちんと答えられていないのはコミュニケーション能力が低すぎる。そんな学生に内定は出せない」

   こう話す採用担当者も珍しくありません。

「そもそも、自己PRは良く言おうと思えば誰でもよく言える。だったら無理に聞く必要はない」

として、自己PRを面接で聞くのをやめる企業も増えています。

   一方で自己PRを面接で聞く企業もあります。ところが、そうした企業が自己PRを重視しているか、と言えばそうでもありません。

   自己PRを話すため事前に準備している学生からすれば、聞かれないと不安になってしまいます。

「自己PRを一度、聞くのをやめた。すると、『なんで自己PRを話させてくれないのですか?』と聞いてくる学生が続出。仕方ないので翌年から、面接で自己PRを聞くことを復活させたが、実はほとんど聞いていない」

   ある採用担当者はこう話してくれました。一度やめるところまで行かない企業でも「自己PRは一応は聞いているけど」と話すところが多数あります。それは自己分析を元とする自己PRよりも学生個人の話こそ重要と考えるからです。これが「一応」の正体、つまり重視しているわけでも何でもありません。

   この点からも自己分析はがっちりやらなくても、と私は思うのです。

   最後に、「相棒」に戻り、杉下警部のコメントを引用します。被害者の学生はボランティアを就活目的でやっていたわけでなく、だからこそ面接では利用したくない、との思いからあえて話していませんでした。杉下警部は、それが間違いだとしてこう話します。

「就職面接がその人間の本質を見極めるものであるのなら、純粋な気持ちで行った彼女の行動こそ堂々と話すべきでした。その姿こそ彼女そのものだったのですから」

   ぜひ参考にしてほしいと思います。(石渡嶺司)

石渡嶺司(いしわたり・れいじ)
1975年生まれ。東洋大学社会学部卒業。2003年からライター・大学ジャーナリストとして活動、現在に至る。大学のオープンキャンパスには「高校の進路の関係者」、就職・採用関連では「報道関係者」と言い張り出没、小ネタを拾うのが趣味兼仕事。主な著書に『就活のバカヤロー』『就活のコノヤロー』(光文社)、『300円就活 面接編』(角川書店)など多数。
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