「得体の知れない不気味さ」の正体 「大クレーム社会」到来が意味するコト

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   将来を嘱望される名古屋大の女子学生が、77歳の女性を殺害したとして逮捕された事件はセンセーショナルだった。報道などによれば、「中学時代から人を殺してみたい『殺人願望』があった」と供述し「人を殺して、達成感がある」と淡々と話す姿は、捜査関係者をあきれさせているという。

   昨(2014)年夏に起きた長崎県佐世保の女子高生による同級生殺害事件と重なる部分も多い。犯罪心理学の学者は「なぜこのような動機で殺人事件が起こるのか?」「加害者の『心の闇』」を指摘する。

   名古屋の事件と時を同じくして、2008年に発生した「秋葉原無差別殺人事件」の加藤智大被告の死刑判決が確定した。被害者の家族は、「ネットが荒らされたことが原因」とする動機に対して、いまだに「納得できない、と憤りを感じている」のは当然だろう。

   しかし、死刑判決は出ても被告の『心の闇』は解明されないし、学者も説明できないままだ。

   いったい、日本でなにが起きているのか?

最近の犯罪傾向とクレーマーとの「不気味な共通点」

体感治安は・・・
体感治安は・・・

   そこでまず、最近の治安に触れておきたい。なぜなら、最近の犯罪傾向とクレーマーには、不気味な共通点がある。

   ここのところ何年も、日本の刑法犯の認知件数は減少している。警察庁が発表している『警察白書』によれば、毎年減少を続けている。

   この統計の中には、いわゆる泣き寝入りや、痴漢などにあっても被害届を出さないといったケースは含まれていないが、刑法犯が減っていることも事実であろう。

   では、本当に治安はよくなったのか? 誰もそんなふうには思っていないのではないか。日本の安全神話は崩壊しつつある。

   「体感治安」という言葉をご存じだろうか? 人が肌で感じる治安の良し悪し。「実際の気温よりも、北風が強くて寒く感じる」という体感温度と同様に、やや漠然とした感覚だが、この体感治安が悪化しているのだ。

   体感治安が悪化した理由は、一言でいえば、私たちが「得体の知れない不気味さ」を感じているから、だ。これまでは、まじめに生活していれば、殺人事件などが自分の身近で起こる可能性はほとんどなかった。そんな危険な目にあう確率は極めて低かった。

   ところが、いまは違う。元警察官の私でさえ驚くような些細な動機による殺人事件が日々、繰り返し起きている。親が子供を、子供が親を殺すといった悲惨な事件も続発している。

   かつて凶悪犯罪の動機は、ヤクザの抗争や三角関係のもつれ、または金銭トラブルなどとはっきりしていたが、いまは、まじめで穏やかな人が突然キレて殺人事件を犯したり、親子などの絆の強い間柄において痛ましい事件が起こったりしている。

   凶悪事件が、いつどこで発生するか分からず、身近なトラブルや諍いによって起きていることが、人々の恐怖心をあおり、体感治安を悪化させている。

やっかいなのは「グレーゾーン」の人々

   こうした社会の歪みを反映して、「困ったモンスタークレーマー」も増加の一途をたどっている。言い換えれば、事件として表に出てこないトラブルの増加が、体感治安を悪化させていると言ってもいい。

   堅実な生活をしている公務員が突然、クレーマーになったり、まじめな会社員が常識外れな要求を突きつけたりしてくることは珍しくない。普通の人が些細な理由によってキレて殺人事件を起すように、ちょっとしたきっかけで善良な市民がモンスタークレーマーに豹変することがある。モンスタークレーマーも「得体の知れない不気味さ」という点では、凶悪犯罪の加害者と共通しているといえる。

   私は、これをグレーな体感氷河期に似た「大クレーム社会」の到来と呼んでいる。

   しかし、ヤクザが跋扈する「闇の社会」が広がって、大クレーマー時代になったのではない。正当な要求や苦情を訴える人々を「ホワイトゾーン」とするなら、詐欺や恐喝に限りなく近いのが「ブラックゾーン」。そして、難癖をつけて、あわよくば金品をせしめようとする悪質クレーマーか、なかなか納得しない善良な顧客かどうかが見極めにくいのが「グレーゾーン」。いま最も問題になっているのは、普通の人々がこの「グレーゾーン」に大量流入していることなのだ。(援川聡)

援川 聡(えんかわ・さとる)
1956年生まれ。大阪府警OB。元刑事の経験を生かし、多くのトラブルや悪質クレームを解決してきたプロの「特命担当」。2002年、企業などのトラブル管理・解決を支援するエンゴシステムを設立、代表取締役に就任。著書に『理不尽な人に克つ方法』(小学館)、『現場の悩みを知り尽くしたプロが教える クレーム対応の教科書』(ダイヤモンド社)など多数。
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