ソニーの「学歴不問」から25年 その歴史的意味と自らの凋落と

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   今回のテーマは「ソニーの学歴不問採用」です。ソニーは1991年、学歴不問採用を打ち出し、大きな話題となりました。1970年代まで、日本の就活市場で企業側は大学に推薦を依頼、推薦を受けた学生しか選考に参加させない指定校制度がありました。

  • ソニーのユニークさは、人材の多様さから生まれたのではなかったか
    ソニーのユニークさは、人材の多様さから生まれたのではなかったか

「偏差値学生はもういらん」と

   1960年代後半から1970年代にかけて、指定校制度は崩壊していきます。大学紛争で学生の推薦どころではなくなった、企業側が急成長をして労働力が足りない、大学数・学生数ともに急増して指定校制度への反発が強くなった、などが要因です。

   1980年代には自由応募が主流になりましたが、それでも難関大・伝統校を中心に採用が進んでいました。

   こうした状況を大きく変えたのが、ソニーの学歴不問採用でした。

   「週刊ポスト」1991年5月3日号の記事「ソニーが断行した『偏差値学生はもういらん』の採用革命」では、ソニーの金子武夫・人事グループ採用部統括部長が次のようにコメントをしています。

「盛田(昭夫会長)もかねがね学歴無用論ということを申し上げている(中略)私たちは『新しいものは異質なものが集まった中から生まれる』と考えています。学歴を重んじてその結果、出身大学が偏ってしまっては同質の人間ばかり集まることにもなりかねない」

   もともと、指定校批判は世論でも強く、ソニーの学歴不問採用は当時、大きく支持されました。学生間のブランドイメージも上がり、リクルートの就職ブランド調査では1997年から2001年まで、5年連続で1位となりました。

   このソニーの決断がもたらした功績は、なんと言っても自由応募を決定付けたことでしょう。それまで公然と難関大・伝統校へのシフトを強く打ち出していた大企業も、ソニーの学歴不問採用を受けて、「うちも学歴不問採用です」と言わざるを得なくなりました。

ウソで就職機会を奪っている

   一方で、「実質が伴っていない」と批判したのがジャーナリスト溝上憲文氏でした。

   溝上氏は、2005年に出版された著書『超・学歴社会』(光文社ペーパーバックス)に2004年のソニーの採用者数上位校リストを提示。慶応義塾、東京、早稲田、東京工業、京都など旧帝大・早慶クラスがリストの上位を占めていたことから、ソニーの学歴不問採用が「詐欺に等しい」と断じました。

「学歴不問の看板を掲げてput up a signboardも、現実は一部の銘柄大学の学生しか採用されないのであれば、看板を信じて応募applyした『二流、三流大学』の学生は、採用される可能性がほとんどない企業に応募することで、就職活動中の貴重な時間precious timeを浪費waste させられていることになる。これはウソをつくことによって、学生の就職の機会employment opportunityを奪っているに等しい行為だ」

   なお、一部英語併記は、光文社ペーパーバックスの特徴でした。

   私は、「学歴不問」実施前の1991年と1992年から2016年までの経年変化を「サンデー毎日」/大学通信のデータにあたり集計してみました。

   1991年(学歴不問採用の実施前年)、採用者総数は1000人。東京、京都、大阪、一橋、東京工業というトップクラスの国立大から54人、早慶上智(早稲田、慶応義塾、上智)クラス142人、MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政。最近は学習院を入れてG・MARCHとも)クラス87人、関関同立(関西、関西学院、同志社、立命館)クラス27人、日東駒専(日本、東洋、駒沢、専修)クラス15人、産近甲龍(京都産業、近畿、甲南、龍谷)クラス0人、などとなっています。

   それが、1992年(学歴不問採用の1期生)は、国立トップ27人、早慶上智126人、MARCH82人、関関同立29人、日東駒専19人、産近甲龍5人と変わります。前年は0人だった産近甲龍クラスが5人、日東駒専クラスも4人増加。

   しかし、日東駒専・産近甲龍クラスからの採用はその後、減っていきます。1997年、2003年、2008年、2016年の実績を調査したところ、日東駒専クラスからはそれぞれ5人、4人、2人、0人。産近甲龍クラスからは0人、0人、1人、0人。東大などのトップクラス、早慶上智クラスが占有率でそれほど減らない中、日東駒専・産近甲龍クラスは壊滅状態です。いくら採用者数が減っている(1991・1992年1000人、2008年500人、2016年274人)とはいえ、結局は国立トップか早慶上智か、というところ。

難関大重視は「不問」後も変わらず

   実は指定校制の全盛期、ソニーも他の企業と同様「技術系はなかば公募、事務系は三十大学を指定」(「サンデー毎日」1967年7月16日号)していました。1971年でも、文系学生については、千葉、埼玉、東京教育(現・筑波)、名古屋市立、武蔵、東洋、近畿などを推薦依頼校から外しています(「就職ジャーナル」1971年2月号)。

   結局、難関大重視は1991年の学歴不問採用実施後も変わりません。そもそも導入時点で懐疑的な見方がはっきりとありました。

   前掲の「週刊ポスト」1991年5月3日号の記事では、東京海上火災保険広報部の否定的なコメントを掲載しています。

   「常識的に(学校名、学部名を)聞くのが普通ではありませんか? こちらが聞かなくても、学生側がいいますよネ。それが自然体ではないでしょうか」

   2005年の『超・学歴社会』でも溝上は、ライバル社のこんなコメントを紹介しています。

「学生が『ゼミは何を専攻していました』『こういう分野で第一人者の先生の指導を受けました』と言えば、有名大学の法学部や経済学部であれば、『彼はあの大学のあの学部だな』と、すぐわかるものですよ。その気になれば、いくらでも探ることは可能です」

   こうした批判は1990年代後半からさかんに出たらしく、ソニー側も中田研一郎・ヒューマンキャピタル執行役員が「プレジデント」2004年11月15日号の記事「人材のプロの証言!『学歴不問のウソとホント』新卒採用は、なぜブランド校に集中するのか」で次のように反論しています。記者の「結果的に、ではありますが、慶応大学出身者が多く入るとも聞きます」に対して、中田氏は、

「それは学生に対して誤ったメッセージを送ることになります。『ソニーは所詮、有名大学からしか採らないんじゃないか』と。とてもおかしな話です。(中略)結果として、東京の有名大学の方が多く入るということはあるかもしれない。でも、それは、自由競争の結果なのだと私はいいたい」

「実力不問」と誤解され

   ソニーの学歴不問採用が罪作りであったのは、応募自由のイメージを醸し出し、その自由なイメージから「実力までも不問」と誤解されてしまったことです。

   ちょっと考えればわかることです。学歴、すなわち大学名のブランド力が強ければ、「あの人は東大だから」「あの人は早稲田だから」と周囲を納得させる力があります。周囲とは社内の同僚、上司や社外の取引先など全般を示します。

   その大学名(学歴)が特にない、というのであれば、周囲を納得させる別の何かが必要です。大学のAO入試であれば、部活動なり、語学なり、場合によっては「一芸」でも構いません。しかし、企業では、ごく普通のサークル活動、習い覚えた語学、趣味的な一芸を超えた、仕事に生かせる実力が必要です。それを何のスキルもない大学生に求めるのは無理があります。

   しかし、その無理が通らないとなれば、学歴不問採用といえども、中堅以下の私大生が上を逆転することは極めて困難でしょう(特に文系総合職)。そのことをはっきりさせないまま、実質的には難関大生のみ採用していたのは、ちょっと罪作りな話です。

   このソニーの学歴不問採用が、大学名依存の就活市場を個人重視へと変えるきっかけとなった功績は認めるにしても、それが「新しいものは異質なものが集まった中から生まれる」というソニー自身の理念に合致したものであったのかどうか。1992年に1000人採用だったソニーが2016年は274人採用と7割減。時代は変わりますね。(石渡嶺司)

石渡嶺司(いしわたり・れいじ)
1975年生まれ。東洋大学社会学部卒業。2003年からライター・大学ジャーナリストとして活動、現在に至る。大学のオープンキャンパスには「高校の進路の関係者」、就職・採用関連では「報道関係者」と言い張り出没、小ネタを拾うのが趣味兼仕事。主な著書に『就活のバカヤロー』『就活のコノヤロー』(光文社)、『300円就活 面接編』(角川書店)など多数。
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