経営者こそ「怒り」リスク負う 知っておきたい「6秒ルール」

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   このところ気になっていたアンガー・マネジメントのお話を、知り合いの専門家から詳しくうかがう機会を得ました。

プロスポーツ界ではすでに常識

6秒間をやり過ごせば
6秒間をやり過ごせば

   人の感情の中で最も強い「怒り」。それを正しくコントロールするアンガー・マネジメントを身に付けることは、アメリカのプロスポーツ界では常識になっているといいます。これまでの私の理解では、「怒り」はプレー中の暴力的な行為を生み、暴力的な行為はファンの心を離れさせ選手生命を短くし、さらにチームの存続をも脅かしかねない、だから正しく管理されるべき、というものでしたが、どうやら正確にはもうひとくだりあるようでした。

   「ポジティブな精神状態では人の視野は広がり、全体状況を踏まえて的確な判断に基づく行動ができるものの、ネガティブな精神状態では一転視野は狭くなり、ごく限られた部分に視野は狭められ、冷静な判断力を失って誤った行動に出がちである」。アメリカの心理学者ショーン・エイカー氏は、実験に基づく理論をまとめた著作の中でこう述べています。「怒り」という一種のネガティブな精神状態についても、同様のことがいえるということです。

   確かにスポーツ中継を見ていると、エイカー氏の理論を地で行くような場面をよく目にします。例えば優勢劣勢が拮抗したサッカーの試合で、相手の挑発的ラフプレーから精神状態をかく乱され、突然守備が乱れて点を奪われてしまうシーン。2016年のプロ野球日本シリーズでは、死球を与え打者の怒りを買い自らも冷静さを失った投手が、騒ぎと距離をおいて集中した次打者に決勝本塁打を浴びるというシーンもありました。

   ワンプレーごとの戦略的なゲーム運びが試合の帰趨を決するアメリカンフットボールで、特にアンガー・マネジメントが重用されているという理由が分かる気がします。

   「怒り」が思考の視野を狭めコミュニケーションを遮断して誤った判断に導く。企業経営者には聞き捨てならない話です。

社長は遠慮の必要がないから

   「短気」「怒りっぽい」「感情的」......これらは人の精神面を表現する類似した言葉ですが、経営者、特にオーナー経営者を形容する際に比較的多用されるように思います。一言でくくるならまさしく「怒り」の感情。ある意味、オーナー経営者は自らの立場が強いがゆえに、「怒り」→「ネガティブな精神状態」→「冷静さを欠く突っ走り」というリスクを人一倍背負っていると言えるのではないでしょうか。

   そうは言っても「怒り」のコントロールはそう簡単ではないもの。特に組織内で遠慮の必要が少ないオーナー経営者にはつくづく難しいことであると、あまたの実情を第三者として見てきた私の立場からは思わざるを得ません。

   では経営者はいかにして上手に「怒り」をコントロールするべきなのでしょうか。

   数年前のこと、元気いっぱいのワンマン経営者である50代オーナー社長Yさんが突然入院しました。めまいがひどく病院に行ったところ、血圧が200を超える危機的な状況でとりあえず安静が必要であるとの診断。見舞いに行くと、普段と変わらぬ元気そうな様子ではありながら、医師からかなり脅かされたと見え、この先どうしたらいいものか考えあぐねている苦衷が伝わってきました。

「幹部社員たちが思うように動いてくれないジレンマで、ついつい頭に血が上るのは毎度のことなんだけれども、ここまで血圧が上がっているとは。ちょっとやそっとでは怒りのスイッチが入らない工夫をしないかぎり命は保証しないと、ドクターに言われました。どうしたらいいものか。いっそ出家でもしようかと本気で思っています」

社長が身に付けた自制の方法とは

   さて、しばしの休養を経て職場復帰されたY社長が、休養後は一転、至って穏やかな物腰に変わったという噂を聞きつけ、「もしや出家?」と表敬訪問すると、

「知り合いに紹介されコーチングというものを始め、気づきをもらいました。相手に当事者意識が欠けている状況で、私ばかりが一方的に当事者になりすぎるから『怒り』になるのだと。それ以来、たとえカチンと来ても当事者にならず状況を俯瞰して、第三者的に心の中で実況することにしたのです。例えば、部下に頼んだ仕事が締切日になっても報告がないというときには、『もしや、この仕事の優先度の高さを部下は理解していないのか。社長はそっと尋ねてみた......』、という具合に。映画のニヒルな主人公になったみたいで、気分も悪くない」

   冒頭に紹介したアンガー・マネジメントの専門家によれば、「怒り」をコントロールする最大のポイントはカチンときてから最初の6秒の自制にあるそうです。カチンときた途端、急激にアドレナリンが出ますが、それがピークに達する6秒をやり過ごせば「怒り」は徐々に引いていき冷静さを取り戻すのだそうです。「怒りの6秒ルール」。Y社長は健康維持という必要に迫られて、自然とその「6秒ルール」を身に付けたようでした。

「部下とのコミュニケーション量が圧倒的に増えました。皆も意見をたくさん言うようになりました。私の『怒り』が、いろいろ邪魔をしていたのかと反省しきりです。酒を飲んで人間関係を損なっていた先輩が、酒をやめて人生が180度変わったと言っていましたが、私にとっての『怒り』がいかに悪であったか、実感しています」

   経営者は経営者であるゆえに、ついカッとなって「怒り」をあらわにしがちです。しかし、経営者である以上、自分の「怒り」が経営面にマイナスを生んでいないか、という観点で冷静に考えてみることも必要なのではないでしょうか。

   アンガー・マネジメントは、影響力を持った「怒り」を表に出しがちなオーナー経営者にこそ知ってほしい知識であると思います。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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