コーチングは教えちゃいけない 「厳しい指導」もやめなさい!

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   前回、気の短いY社長がすぐにカッとアタマに血がのぼらないための秘策の思いつきについて、「コーチングを受けて気づきを得た」という話をしました。私自身も以前、勉強を兼ねてコーチを雇って定期的にコーチングを受けた経験があるので、コーチングの効用についてお話します。

  • 厳しいコーチはよくないのかも・・・
    厳しいコーチはよくないのかも・・・

コーチはただひたすら質問を投げかける

   「コーチ」は、スポーツの世界ではよく耳にする名称ですが、その一般的な理解はというと「指導者」、すなわち「教えてくれる人」という印象が強いと思います。しかし、複数のコーチング協会が共通して定義するところでは、「コーチングは教えることではない。ティーチングとコーチングはまったく違う」ということのようです。

   そもそも、「コーチング」の語源は英語の名詞「COACH」で、馬車のことを言い表しています。馬車はすなわち、馬によって引っ張られ前に進むことができるもの。それが転じて、相手の中にあるものを巧みに引き出し、前向きな力としてプラスに作用させる、という意味で使われていると理解するのが正しいのだと。

   この説明から、直接教えるティーチングや先生を意味するティーチャーと、コーチング、コーチは異なるものなのだということが、ぼんやり見えてくると思います。

   では、コーチングの現場では具体的に何が行われるのか――。コーチはただひたすら質問を投げかけてきます。「その時、どう思いましたか?」「今何が必要だと思いますか?」「これからどうすればいいと思いますか?」などなど。

   コーチングを受ける側は、投げかけられた質問に対して、自分なりの回答を考えて返していきます。その返した回答に、また追っかけ新たな質問が投げかけられ、それにまたこちらが答える......の繰り返しなのです。

   すなわち、ティーチングは一方的に教えることで知識や習慣を身につけさせることが目的なのですが、コーチングは教えることではなく、本人に気づきを与えることで新たな発想を引き出し、それにそった前向きな一歩を踏み出させるもの。まったく異なる手法で、まったく異なる着地へ導くものなのです。

   まさに馬車の原理。それがコーチングというわけです。

「気づける人」の生産性は高い

   ポイントは、質問に答えることで問いかけられた側が教わったこと、指示されたことではなく、自ら発想した事柄を口にすることにあります。前回のY社長も問いかけに対して自ら発した言葉から気づきを得て、思わずカッと来たときに怒りの矛先を爆発させることなく収める手立てを思いついた、ということなのでしょう。

   少し前の話ですが、知り合いのコーチング・コンサルティング会社のW社長が、コーチングの本場アメリカから入手した調査データとして大変興味深いものを見せてくれました。

   「やらされ感でやる仕事の生産性を1とすると、仕事の意味や意義を理解して取り組むと生産性は 1.3 倍になり、さらに自ら企画を考える段階から参画すると 1.3 の2乗になって1.69倍になる」。端的にいうと、「人から言われるまま取り組むことより、内容を理解してやること、さらに自分で思いつき自分で決めたことは明らかに生産性が上がる」ということです。

   だからこそ、自分の言葉でやるべきことを発し気づきを得るコーチングには、ティーチングでは得られない大きな効果があるのだと、W社長は力説していました。

   そんな話を思い出した折にお目にかかった、クライアント先のT社長。彼とはかれこれ10年以上の長い付き合いなのですが、毎度毎度口をついて出るのは、「うちの幹部社員ときたら、毎度毎度同じことをキツく言っても本気で聞いてやしない」という台詞です。

   ちょうどその日も、「また昨日、私から何度言われても言われている通りにやらないから、大切な取引先からクレームをもらうことになった」と嘆いていました。

   そこで、私は「コーチングをご存知ですか?」と切り出して、W社長から聞いた話を引き合いにして説明して差し上げました。

   するとT社長は、

「じゃ、毎度同じことを言う代わりにどうすればいいんだい?」

と。

「とりあえず何か問題が起きた時に、文句や口うるさい指導をせずに、『どうすればよかったと思う?』と質問してみてください。それに対して自分の口から『こうするべきでした』と言わせたらしめたもの。次からは少し変わると思いますよ」

と答えました。

   社長の表情はやや疑心暗鬼でしたが、その日はそこまでにしました。

「毎度同じことを言わせるな」と厳しく指導したけど...

   2週間ほどしてのこと。電話でT社長と話していると、またまたいつもの愚痴が飛び出しました。「K課長の詰めが甘くて、また受注に失敗。毎度同じことを言わせるな、と今厳しく指導したよ」。

   また厳しく指導...? やはり私の一方的なティーチィングは、社長には効果がなかったようです。

   私は、「社長、厳しい指導で効果がないK課長に改善を促すにはどうしたらいいと思います?」と、問いかけてみました。

   T社長は......、しばし黙り込み、

「どうしたら同じようなことを繰り返さないか、自分の言葉で言わせてみるか...」

と。

   T社長が社員とのあいだでコーチング的コミュニケーションがとれるようになるために、まずは社長自身のコーチングからはじめることにしました。

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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