僕はまた東ティモールに行ってみたい 新しくできたトイレを撮りたいから
――写真家・小林紀晴氏インタビュー
王子ネピアは、東ティモールで1000の家庭のトイレの建設と15の学校のトイレの建設または修復を支援する「nepia 千のトイレプロジェクト」を立ち上げた。プロジェクトの背景や関係者の思いを、6回シリーズで描く。
2008年8月15~25日、東京・渋谷のBunkamura Galleryで小林紀晴氏撮影の写真展が開かれる。
「nepia 千のトイレプロジェクト」の一環だ。同氏は、出展作品の撮影のため4月に初めて東ティモールを訪れ、子どもたちを中心に多くの人々の姿をカメラに収めた。しかし「これで終わりではありません。まだ、出来上がったトイレを撮っていないので」と話す。
アジアで始まった写真家人生
今度は自分がアジアに恩返しする

小林氏がカメア村の小学校で撮った子どもたち。笑顔が印象的だ
今年2月、1本の電話がかかってきました。「東ティモールでトイレをつくるプロジェクトが立ち上がります。協力してくださいませんか」。「nepia 千のトイレプロジェクト」の関係者からでした。王子ネピアさんがユニセフと共に、東ティモールの衛生の改善を支援するといいます。「千のトイレをつくる、か。面白そうだな」と興味を持ちました。
まだ行ったことのない東ティモールにも関心がありました。僕は20代でアジアを巡り、写真を撮ってきました。僕の写真家人生はアジアで始まったと言えます。そのアジアに恩返しをする機会だと思い、協力を快諾しました。
では、自分に何ができるだろう。日本では、東ティモールに詳しい人は多くありません。そこで、東ティモールを知るキッカケを与えるような写真を撮ろうと思いました。現地での撮影は5日間。短期間で現地の様子を写し出すには、人の表情や印象的なシーンをできるだけ多く作品にして見せるしかないと考えました。
首都ディリの空港から街に入ると、のんびりとした雰囲気で、子どもも大人も人懐っこい笑顔を向けてきます。ああ、ほかのアジアの国と同じだなと感じました。
突然、僕の目に飛び込んできたのは廃墟でした。暴動でメチャメチャに破壊された建物。突きつけられた強烈な現実にショックを受けたと同時に、「これは絶対写真展に出そう」とシャッターを切りました。この国の過去を無視しては、本当の東ティモールを伝えられないと思ったからです。
無邪気な子ども、銃を構えた兵士
現実をそのまま伝えたい

東ティモールで実際に使ったカメラを手に、撮影の様子を語る小林氏
初日に、ディリ郊外にあるカメア村の小学校を訪れました。山あいにある学校で、見下ろすと両側に海が広がる美しい風景でした。すぐ撮影場所に選びました。
ネピアのティシュペーパーのパッケージ写真は、この学校の生徒たちの笑顔です。撮影当日は100人ほどを集め、「とにかく笑って」と身振り手振りで伝えました。長時間の撮影でも子どもたちは嫌な顔をせず、笑い続けてくれました。ファインダー越しに感じたのは、彼らの強い意志です。「みんな、きっと先生から『トイレをつくりに来てくれた日本の人に協力しなさい』と言われたんだろうな。炎天下でも笑顔を見せてくれるのは、それが自分の使命だと思っているに違いない」と想像しました。
その後、数人の子どもを個別に撮りました。試し撮りした写真をあげると、満面の笑みを浮かべて大事そうにしまうんです。家に帰って両親やきょうだいに見せるんだろうな、と思うと、僕もうれしくなりました。
カメラに収めた中には、機関銃を手にした兵士もいます。東ティモールの現実を見せるには、兵士の姿は欠かせないと考えたからです。僕はユニセフから頂いたTシャツを着て、彼らに直接お願いに行きました。「我々はユニセフです。撮影に協力してください」と(笑)。幸い気さくな人たちでしたが、重々しい銃は存在感たっぷりで、緊張しましたね。
ほかにも多くの人を撮りましたが、僕の中で東ティモールはまだ終わっていません。プロジェクトを通じて実際につくられるトイレを撮っていませんし、今回出会った子どもたちの成長した姿を見たいと思っています。
写真展には年代を問わず、多くの人に足を運んでいただきたいです。日本の子どもが東ティモールの子どもの顔を見て何かを感じ、「もっと東ティモールを知りたい」と思ってほしいです。実は、ある子どもの瞳の中には美しい青空が写っているんですよ。そんなところに気づいてくれたらとてもうれしいですね。(談)
こばやし・きせい
1968年長野県生まれ。新聞社カメラマンを経て95年『ASIAN JAPANESE』(情報センター出版局・新潮文庫)でデビュー。97年『DAYS ASIA』で日本写真協会新人賞受賞。『東京装置』(幻冬舎)『9月11日からの僕のこと』(講談社)など著書・写真集多数。今年6月、2年ぶりとなる写真展「はなはねに」を開いた。
nepia 千のトイレプロジェクト
王子ネピアが日本ユニセフ協会とともに、開発途上国のトイレと水の問題を解決するために立ち上げた支援プロジェクト。2008年7月1日〜10月31日のキャンペーン期間中、ネピア商品の売り上げの一部がユニセフの「水と衛生に関する支援活動」をサポートし、東ティモールで1000の家庭のトイレの建設と15の学校のトイレの建設または修復に活用される。
王子ネピア株式会社
1971年、王子製紙の全額出資により設立。ティシュペーパーやトイレットロール、紙パルプ加工品、紙おむつの製造・加工・販売を手がける。