トイレの改善が感染症を防ぐ 東ティモールの「水」を守れ
王子ネピアは、東ティモールで1000の家庭のトイレの建設と15の学校のトイレの建設または修復を支援する「nepia 千のトイレプロジェクト」を立ち上げた。プロジェクトの背景や関係者の思いを、6回シリーズで描く。
東ティモールでは、5歳未満児の死亡率が1000人あたり130人にも上る(※)。下痢やマラリアといった感染症のせいで、その防止策としてトイレの設置は非常に重要だ。「nepia 千のトイレプロジェクト」のため東ティモールを視察した王子ネピア・今敏之氏、日本ユニセフ協会・浦上綾子氏、日本トイレ協会・加藤篤氏の三人が、感染症とトイレとの関係について話し合った。
編集部 まずプロジェクトを立ち上げた経緯を簡単に教えてください。
今 当社では昨年から、首都圏の小学校で「うんち教室」を開いています。子どもたちに「うんちは恥ずかしくない」とメッセージを送り、健康におけるうんちの大切さを説いてきました。活動の中で、海外には衛生の不備で命を落とす子どもたちが大勢いることを知り、トイレを通じて何か貢献ができないかと考えたのがきっかけです。
しかし、現地で実際に支援活動を実施するには、経験やノウハウが欠かせません。そこでユニセフさんにご協力いただくことになったのです。
浦上 ユニセフでは2000年から、東ティモールで「水と衛生に関する支援活動」を開始し、清潔で安全な水の供給の拡大、トイレの建設や住民の衛生習慣の定着を進めています。この活動に王子ネピアさんが賛同され、サポートいただく形になりました。
今 実際のトイレの建設や住民の教育は、ユニセフさんなしには進みません。我々は商品の販売キャンペーンを通じて日本のお客様に東ティモールの現状を伝え、現地に多くの支援を届けたいと思います。
不衛生な水と環境で下痢やマラリアがまん延
解決のカギはトイレの建設と設置場所

今年4月に視察した東ティモールの衛生事情を話し合う今氏、浦上氏、加藤氏(左から)
編集部 現地のトイレ事情はどうでしたか。
加藤 主に学校を視察したのですが、多くは壊れて使えない状態でした。トイレ不足は深刻ですね。
浦上 農村部ではトイレがない家庭も珍しくありません。村民は野外での排泄を余儀なくされ、不衛生が原因で下痢やマラリアなどを招いています。今回のプロジェクトでは、トイレそのものの設置と衛生習慣の普及・定着に重点をおきます。建設するのは、便器の下の地面に穴を掘って地中に排泄物を落とす簡易なタイプです。
加藤 これは「ピットラトリン」という、開発途上国に最も多く見られるトイレです。排泄物の水分が地中に浸透するため、井戸や地下水の水脈近くにつくると汚水が流れ込み、水質汚濁や飲用水汚染につながる恐れがあるので気をつけなければなりません。
日本トイレ協会は2005~07年、開発途上国で活動する青年海外協力隊員や非政府組織(NGO)を対象にトイレ・衛生に関する調査を実施しました。地下水汚染の原因のワースト1は「人の排泄物」で、有効回答数101件のうち26件を占めています。トイレの汚水が環境を破壊し、感染症を引き起こす原因になることを住民に周知し、対策を立てることが必要です。
浦上 感染症の予防で欠かせないのは、衛生習慣の定着です。特に子どもへの教育が大切。子どもは、学校で「手を洗えば病気を予防できる」と教えれば、家に帰って家族にも「手を洗おうよ」と呼びかけるでしょう。家中に手洗いの習慣が広がりますよね。
加藤 そう思います。私は、現地の人々は不衛生が病気の原因だと理解し、知識も持っていると思いました。ただ行動に移さないのが課題。意識を行動につなげ習慣化させる取り組みがポイントになるでしょう。
現地で受けた村人からの大歓迎に
「絶対に成功させなければ」と決意

山村で使われているトイレ。奥に見えるオレンジ色のドラム缶には水がためてあり、加藤氏が簡易なキットで水質を計測すると、アンモニア性窒素は検出されなかった
今 子どもと言えば、山村の視察に向かう途中で見かけた、朝日を浴びて歩く小学生の登校風景が印象に残っています。笑顔で歩く子どもの顔を見て、「この子たちが元気に学校へ通い続けられるように、自分ができることを精一杯やろう」と改めて決意しました。
編集部 具体的に今後どのような形で貢献したいとお考えですか。
今 我々のプロジェクトにかける思いや東ティモールの厳しい現状をお客様に分かりやすく伝え、「共感」をキーワードに理解してもらうことが我々の役目だと思います。
加藤 私は帰国後に、日本の小学生に現地のトイレのスライドを見せたんです。みんな興味津々で、「便器の隣になぜ水槽があるの」「桶はどうやって使うの」と質問が出ました。子どもたちの間でトイレを通じてお互いに関心を寄せ合い、国際交流につながる活動ができないかと考え始めています。
浦上 王子ネピアさんとは、今後も組織の風土や価値観の違いを尊重し合い、同じゴールを目指して手を携えていきたいです。何よりも、現地を訪れたときにあれほど村の人々に大歓迎されたら、「これは絶対に成功させなければ」と思いますよね(笑)。
今 おっしゃるとおり(笑)。トイレ建設の第一弾は今年の12月までに完了する予定です。プロジェクトを継続していくためにも、多くの方々に東ティモールの現状を知っていただきたい。私自身はもっと東ティモールに入れ込んで(笑)、ユニセフさんと共に支援の輪を広げていきたいと思います。
※ユニセフ東ティモール事務所調べ
メモ:2006年のユニセフの調査によると、東ティモールでは、5歳未満児の死亡率が1000人あたり130人に上り、その原因の上位を占めるのが下痢やマラリアといった感染症だ。「nepia 千のトイレプロジェクト」では、トイレの設置場所に細心の注意を払い、井戸や水源から20メートルほど離して汚水が流れ込まないようにする。建設にあたってはユニセフが必要な資材を用意し、建て方や維持管理の方法も教育する。住民は労働力や、入手が可能な竹やビニールなどを提供する。トイレを使う住民の主体性を引き出しつつ、自分たちで維持できる仕様のトイレを建設する。
nepia 千のトイレプロジェクト
王子ネピアが日本ユニセフ協会とともに、開発途上国のトイレと水の問題を解決するために立ち上げた支援プロジェクト。2008年7月1日~10月31日のキャンペーン期間中、ネピア商品の売り上げの一部がユニセフの「水と衛生に関する支援活動」をサポートし、東ティモールで1000の家庭のトイレの建設と15の学校のトイレの建設または修復に活用される。
王子ネピア株式会社
1971年、王子製紙の全額出資により設立。ティシュペーパーやトイレットロール、紙パルプ加工品、紙おむつの製造・加工・販売を手がける。