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母親の笑顔のような暖かさ アン・ルイスのクリスマスソング


ピンククリスマス ~プカリシャス チーク4~
2007年11月21日発売/3000円/AZCL-10010
Aer-born/Victor Entertainment


   クリスマスになると必ず思い出すことがある。昭和30年代初頭、小学校に入る前のある年のクリスマス。当時、まだ省線と呼ばれていた山手線に母と姉と乗り込んだ。筆者は電車に乗る前に新宿で買ったホールのクリスマスケーキを、運搬係として大事にぶら下げていた。

   代々木の叔母の家に毎年集まる慣わしで、乗車区間は新宿~代々木の1駅。車内はクリスマスでもあり混雑していた。1駅とはいえ大人の間で、もみくちゃになっていた。代々木で母に急かされひょいと降りた。そして手をつないだ。つないだ手に違和感があってふと見ると、手の中に紐がある。その時不意に血の気が引いた。大事なクリスマスケーキがないのだ。紐はすっぱりとなにか刃物のようなもので切られていた。

   掏(す)られた、と言うのもなんだが、掏られたのだ。当時はまだ、戦後10年経つか経たぬ頃で、世情もどことなく騒然とした感じがあった。省線の掏りなど日常茶飯事だったようで、母は「あらま」といって笑っていた。それが忘れられない。

   ちなみに省線の乗り賃も子供だから5円で都内であればどこへでもいけた。電話もどれだけどこへ掛けても10円だったと思う。いい時代だったという記憶がいまだにある。

   当時のクリスマスには、ラジオのFENから流れるクリスマスソングが、筆者の心をワクワクとさせた。何を言っているのかわからないが、楽しそうだった。

   アン・ルイスは姉御肌のロッカーという印象を世間に与えている。このアルバムに収められたクリスマス・スタンダードを歌うアン・ルイスのヴォーカルは確かにロック・ヴォーカルなのだが、なにか暖かい。3曲目のジョン&ヨーコの名作「Happy Xmas (War is over)」を、息子の美勇士とデュエットしているのだが、アン・ルイスが母親の優しさで全曲を歌いきっているのだ。

   なにか聴いていてホッとするものがある。そう、ケーキを掏られたあの時に、母親の笑顔に感じた安堵感のように。

【ピンククリスマス~プカリシャス チーク4~  収録曲】
1.Carol of the Bells (Overture)
2.Christmas Song
3.Happy Xmas (War is over)
4.Winter Wonderland
5.Let it Snow! Let it Snow! Let it Snow!
6.Have Yourself a Merry Little Christmas
7.White Christmas
8.Santa Baby
9.Blue Christmas
10.Rockin' Around the Christmas Tree
11.I Saw Mommy Kissing Santa Claus
12.Pink Christmas
13.I'll Be Home For Christmas