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フルハイビジョンが当たり前の ビデオカメラに、あえて異議アリ!

   ただいま梅と桜の季節――そして卒業式・入学式シーズンでもある。もっとも、式場で張り切ってるのは、当の児童や生徒たちよりも、デジタル・ビデオカメラ(カムコーダー)を構えた親のほうだったりするのだが、今回はそんな旬のマストアイテム、ビデオカメラの現状について取り上げてみたい。

フラッシュメモリの優位は動かない

多くの記録媒体を備えた重厚長大機の代表格、日立の「DZ-BD9H」。 実売価格で15万円前後。
多くの記録媒体を備えた重厚長大機の代表格、日立の「DZ-BD9H」。 実売価格で15万円前後。

   ビデオカメラの特徴として、まず記録媒体の種類、組み合わせが非常に多いことが挙げられる。内蔵フラッシュメモリに各種メモリカード、各種DVD。昨年はついにBlu-ray(ブルーレイ)搭載のカメラまで登場してきた。

   ところで、近年のデジタル・ポータブル製品の傾向を見てみると、音楽プレーヤーをはじめとしてフラッシュメモリ(+メモリカード)の優位が揺るがない。これはフラッシュメモリ採用製品が小型・軽量で、起動が速く、衝撃に対してもHDD、DVDよりは強いとされるなど、メリットが多いためだ。ビデオカメラという製品の特性を考えても、メモリ製品をファースト・チョイスとするべきだろう。

   一方で、ハイビジョン映像を長時間記録するなら、比較的高容量のHDDタイプの出番となる。HDDとフラッシュメモリ、DVDとのハイブリッドも多い。今年2月に発売された日立の「DZ-BD9H」などは、60GBのHDDに加え、DVD、Blu-ray、SDカードの三つを記録媒体に持つ。まさに「全部入り」といったところだが、その分重量もかさんで630g。携帯性は犠牲になってしまう。

ビデオカメラの「最新録画規格」は使いにくい

   前回のHDD&DVDレコーダーの稿で、圧縮効率に優れるH.264コーデックを採用した新しい録画規格「AVCREC」を、注目の"旬"の機能として紹介した。松下電器によれば、フルハイビジョン映像が従来の最大4倍の時間、記録できるというものだ。

   じつは、ビデオカメラにもAVCRECによく似た「AVCHD」規格を採用するものが増えている。両者の一番の違いは、デジタルテレビ放送を録画するための著作権保護機能の有無で、ビデオカメラ用のAVCHDには保護機能がない。その他はほとんど似たようなものと言って差し支えないだろう。しかし、HDD/DVDレコとビデオカメラでは、似たような機能でも、だいぶ話が違ってくる。

   HDD/DVDレコは、他人が制作した著作物を内部で録画、再生するのが主な用途。誰かにコピーを渡したりする機会は限られ(限らされ)ており、自己完結型の、孤独なモンロー主義的デジタル製品なのである。従って、互換性の重要度は比較的低い。

   一方、ビデオカメラは、ネットワーク的に使う可能性のある製品だ。録画の対象は子供の成長過程であったり、旅行、趣味・サークルなどで、たいていは撮影者が著作権者。撮影物を両親や友人・仲間にDVDで渡したり、どこか別の場所で上映したりする機会も少なからず想定される。

   ところが、AVCHDをDVDに焼いてみても、対応する再生機は少ないし、パソコンでも対応する再生ソフトは限られてしまう。ビデオカメラの性質、使われ方――他者、他機器とのネットワーク――という視点で見るとAVCHDは弱点が多い。自己完結のHDD/DVDレコとは違って、ビデオカメラでは、この新規格のありがたみが減じてしまう。

ハイビジョン、フル規格のビデオカメラは本当に必要か?

軽薄短小路線を行く三洋の「DMX-HD1000」。フルハイビジョン録画は4GBのSDHCで約43分可能。
軽薄短小路線を行く三洋の「DMX-HD1000」。フルハイビジョン録画は4GBのSDHCで約43分可能。

   ビデオカメラと同じように「画」を記録するデジタルカメラというジャンルを眺めてみると「コンパクトデジカメ」が一大勢力だ。翻ってビデオカメラでは、重厚長大で高額なモノが幅を利かせ、変わることなく主流派でいる。

   最新モデルの宣伝を見ていると、もはやフルハイビジョン(HD)規格録画できなければ時代遅れ、とでも言いたげである。しかし、たとえば子供の入学式や運動会――画面の半分は人の頭が映っていたりする――が、いますぐ(フル)ハイビジョン規格映像でなければいけないのだろうか。

   あるメーカーの広告が押しつけがましく示唆するように、「子供の姿を高画質で残す」のは親の務めなのかもしれない(もっとも、デジカメの画質がピクセル数だけでは計れないように、ビデオの「画」も解像度では決まらないはずだが…)。

   フルハイビジョンは悪くない。しかし、そのために全てを捧げるつもりもない。HDDを積むなどしてカサも重量も増した高価なカメラを持ち、それをディスクに記録するために、またしても高価(で使用者がまだ少数)なブルーレイレコーダーとディスクを買うなどといったことは、少なくとも凡庸な撮影者である筆者にとっては願い下げである。

   むしろデジカメのように、コンパクト、軽量で簡単、手頃な価格のビデオカメラの選択肢がもっと増えてほしいと願う筆者であった。