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「松丸本舗」でリアル店舗革命進む 5万冊が棲む「松岡正剛の世界」

   人間の思考のすべてがつまった場所、それが書店だ。一般的な書店で本は出版社や作家、あるいはジャンルごとに整然と並べられるものだが、この法則を全く無視した、でも不思議と落ち着いて本を選べる場所が東京・丸の内にある。いったいどんな場所なのか?

書店なのに縦置き、横置きが自由

秘密基地や博物館を思わせる「ワンダーランド」
秘密基地や博物館を思わせる「ワンダーランド」

   その書店は、東京駅と直結するビル「丸の内オアゾ」の4階、丸善・丸の内本店の中でショップ・イン・ショップという形態で運営されている「松丸本舗」。編集者で著述家の松岡正剛さんが共同プロデューサーとして参加し、2009年10月にオープン。敷地面積65坪の中に、5万冊以上の書籍が所狭しに並べられている。

   一般的な書店と異なるのは、本の見せ方、並べ方だ。一足踏み入れて驚くのは、天井近くまである大型の書棚。しかも、その書棚は整然と一列に並べられるのではなく、円を描くようならせん状に配置されている。店内は照明がやや暗く、迷路のように入り組んでいて、秘密基地や博物館を思わせる場所だ。本は縦置き、横置き関係なく自由に並べられ、背の高ささえ一定していない。また、装丁のキレイな本をショーケースにおさめたスペースもある。

   一見雑然と並べられているようにも見えるが、「ルール」はある。テーマ別、文脈ごとに置くことが決められていて、松岡さんの書評ブログをまとめた全集「千夜千冊」(7巻+解説・索引・年表1巻、全8巻/求龍堂、2006)に基づく部分が大きい。全集は、各巻にテーマ(第1巻「遠くからとどく声」~第7巻「男と女の資本主義」)が設けられ、これに従ってブログ書評を編集しなおした意欲作。「松丸本舗」は、全集のテーマに沿ったかたちで、書評に取り上げた本が配置されているのが最大の特徴となっている。

本と本のつながり、新たな視点をもたせてくれる

松岡正剛の読書世界――
松岡正剛の読書世界――

   全集で取り上げた本はいわば、松岡さんの読書世界の「核」だ。それらの本を集めた場所は「本殿」と名付けられ、店内の中心に位置する。その周囲をフォローするように11のエリア――読書人の蔵書を紹介するコーナー「懐本」、俳優や作家、経営者ら読書家たちの書棚を再現したコーナー「本家」、季節ごとのテーマで入れ替えるコーナー「本集」などがレイアウトされている。丸善経営企画室の川澄美佐緒さんは、この空間の面白さを次のように説明する。

「一般的な書店ではいつも行くジャンルが決まっていて、たとえば小説なら小説のコーナーにばかりに行きがち。ここならば、テーマごとに書棚自体が『編集』されていますし、それぞれの書棚も近い。今までに興味の無かったテーマにも行きやすく、全然知らなかった分野の本でも『入門向けのものなら読めるかも』と思えば、興味が新しい方向へ広がっていくのではないかと思います」

   本が売れてしまっても、同じ書籍を補充するとは限らない。これも一般的な書店との違いで、いわば「進化する書棚」なのだ。小さな変化があるから、毎週来ても違った装いを見せる。書棚の見方に決まりはないから、迷ったら迷ったまま、本から本へとさまよって楽しめばいい。

「電子書籍やネットでの購入もたしかに便利ですが、リアルな店舗は知らなかったジャンルの本に出会える、気付かせてくれる場所でしょう。意図的な並べ方をすることで、本と本のつながりや新たな視点をもたせてくれるのが『松丸本舗』の魅力でしょうか」

   「松丸本舗」では、本と出会える新しい試みとして2010年12月13日、本好きの著名人が「目利き」として選ぶ「松丸本舗ブックギフト・プロジェクト」を立ち上げた。まずはクリスマス向け企画「X×X Books くすくす贈りマス」として、美輪明宏さん、山口智子さん、ヨウジヤマモトさんら7人がチョイスした本とモノのセットを合計100セット限定で用意したが、発売数日で完売するほどの人気ぶりだったという。お正月企画「本の福袋」(2011年1月2日~7日)や来春にも同様の試みを予定。本を人に贈る習慣を提案したいと意気込んでいる。