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「想定外」連続の災害医療なしとげた「平凡な外科医」

『東日本大震災 石巻災害医療の全記録─「最大被災地」を医療崩壊から救った医師の7カ月─』
『東日本大震災 石巻災害医療の全記録─「最大被災地」を医療崩壊から救った医師の7カ月─』

   講談社は、『東日本大震災 石巻災害医療の全記録─「最大被災地」を医療崩壊から救った医師の7カ月─』(石井正著 講談社ブルーバックス)を、2012年2月20日に刊行した。著者の石井正氏は「宮城県災害医療コーディネーター」という職責のもと、市町村別で最大の死者を出した宮城県石巻市を中心とする「石巻医療圏」(石巻市・東松島氏・女川町)22万人の被災者を守るために奮闘した、石巻赤十字病院の外科医だ。

   本書には、それまでは平凡な外科医だったという石井氏が、医療機関も行政も被災して機能不全に陥った石巻で、住民22万人の生命と健康を一身に背負うことになり、全国から駆けつけた約1万5千人の医療チームを統括して数々の難局を切り抜けていった7か月間の記録が詳細に綴られている。

   読み進めるうちに、自分自身が「食料がない」「水がない」「薬がない」などの各避難所からのSOSに迅速な対応を求められる石井氏の立場になった錯覚に陥り、とうていマネできるものではないと痛感する。石井氏は、医療のみならず、被災者のためにできるすべてを実行することを自分に課していた。

   石井氏が最も強く訴えるメッセージは、次の言葉に集約される。「災害とは、応用問題の連続である」。災害に同じ形のものは1つもない。阪神・淡路大震災後に確立された災害医療システムは、東日本大震災では完全に裏をかかれたという。

   事前の備えは絶対に欠かせない。しかし、いざ災害が起きれば、その後は想定外のさまざまな困難の連続である。本書は、そのときリーダーとして、あるいは一市民として、どう判断し、行動すべきかを考えるための「背骨」を与えてくれる本だ。石井氏のマネをするのは難しいが、その経験と教訓は、日本人すべてが共有すべきものだろう。

   石井氏の活動はNHKスペシャルや海外メディアもすでに取り上げられており、本書も発売以来好評で、2刷が決まっている。