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笑わずに最後まで解けるか―中国の運転免許試験問題

   正誤問題です。

「高速道路で正常に走行した車両に出会った時、後をつけて近づいた時、時期を選択して速やかに真ん中から差し込むことにします」
正解:「まちがっている」

   中国の自動車運転免許の筆記試験問題集(日本語版)の一例である。何度読んでも、いまだに意味が理解できない。真ん中から何を差し込むのか?

「正解」教えてくれる業者も

筆記試験問題集。タイトルの文もビミョーだ
筆記試験問題集。タイトルの文もビミョーだ 免許証。これは結構フツーか
免許証。これは結構フツーか

   意を決して北京で運転することにしたのだが、中国では国際免許証は使えず、中国の免許証を取得せねばならない。日本の免許証があれば実技試験は免除されるが、筆記試験は必須だ。書類準備が面倒なので代行業者を利用した。申請料、テキスト代など含めて950元。数年前に受験した知人が利用した代行業者は、試験のときに通訳としてついてきてくれて正解を「これだよ」と教えてくれたそうだが、今回利用した代行業者にはそういう親切なサービスはなかった。

   試験はコンピューター化されており英語、日本語、韓国語だけでなく、その他多くの言語で受験できる。100問中90点以上が合格ラインと厳しい。常識で判断すれば受かるだろうと準備しないで受験して落ちた、という人の話も耳にした。母語だと読むのも早いだろうと思い、問題集も日本語を購入し、日本語で受験したが、本番の試験でも冒頭のような意味不明の日本語続出で、中国の交通規則の試験というより、「意味不明の日本語から原文の意味を類推する能力を問われる試験」みたいだった。試験時間は45分。全問の解答を入力し、見直しもして(訂正もできる)終了のボタンを押すと、すぐに点数が表示され、合格か不合格かがわかる。試験勉強のおかげで、めでたくクリア。数日後、代行業者で免許証を受け取った。

川に落ちたらビニール袋をかぶる?

交差点もみなスイスイと
交差点もみなスイスイと ドライバーに亀を売る人も。買う人いるのか?
ドライバーに亀を売る人も。買う人いるのか?

   実際の試験には出なかったが、こんな問題も問題集にあった(原文ママ)。

四択問題:

車両は河川に転落した時、運転者が自分で救済するまちがっている方法は:

A.車窓を閉めて車内の進水を阻止します。

B.速やかに手動方式でドアを開けます。

C.水が運転室を浸透したとき、内外の水圧を等しくさせます。

D.大きいビニール袋で頭を被って、首をしっかり絞ります。

正解:A

   まちがっているものを答える問題なので、A以外は正しい行為ということになる。本当にビニール袋をかぶっていいのかと聞きたくなる。

   3年前に受験した知人の問題集(英語)をみせてもらったら、もっとすごい問題があった。

三択問題:

事故現場で腹部に穴が開き小腸が飛び出している人がいたら、どうすべきか。

A.小腸を押し戻す

B.何もしない

C.小腸は押し戻さず、容器で被い、紐でくくりつける。

正解:C

   最近問題が全面改訂されたようで、残念ながら腸露出問題は今の問題集に掲載されていなかった。三択問題も、現在は四択問題となっている。

交通規則と現実とのギャップ

   問題集によると、「青信号で曲がる車両は、通行対象の直進車両、歩行者の通行を妨害してはならない」となっているが、実際に北京の道路で歩行者のために止まる車はいない。うっかり止まると、後続車にクラクションをブーブー鳴らされて早く行けとせかされる。横断歩道では、「運転手は歩行者と目が合ったら歩行者が気づいたとみなしてアクセルを踏む」から、歩行者は運転手と目を合わせないで突っ切るほうがよいのだという。

   実際、北京の歩行者は慣れたもので、赤信号であっても車が途切れれば渡るし、車の数センチ横を平気ですりぬけていく。したがって中国の運転は、対歩行者についていえば、楽といえる。歩行者のほうで、うまく車の横をすり抜けながら、縫うように交差点を渡っていく。これに慣れると、日本で運転するときに非常に危ない。横断歩道に人がいてもついつい止まるのを忘れる。帰国時に、横断歩道を渡っているおじいさんをうっかりひきそうになった……。

   日本を訪問した中国人はみな、車が歩行者のために止まってくれることに感激するし、ある知人は、渋谷ハチ公前のスクランブル交差点で、何百人もの人が赤信号で交差点にはみ出すこともなくピタッと止まっている光景をみて「すごい!」と絶句していた。日本だと、たとえ車が1台も通っていなくても、夜中で誰もみていなくても、歩行者は赤信号で止まる。個人個人が規則を遵守するというモラルの浸透が日本の交通事情を北京よりはるかにましなものにしているのだろう。中国14億人がそれに気付く日はまだ遠い。

小林真理子

【プロフィル】
小林真理子(こばやし まりこ)
北京在住3年のフリーランスライター&翻訳業。
趣味は旅行と武道。