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【書評ウォッチ】山崎努さんの個性派読書術 楽しめる筆者紹介記事

   【2012年5月27日(日)の各紙から】著者の人物紹介やインタビューは読書欄の定番だが、おもしろい人がおもしろいことを言っていると、本の情報に加えて記事自体もけっこう楽しめる。『柔らかな犀の角』(文藝春秋)を書いた山崎努さん(75)が朝日に登場した。この個性派俳優は読書家としても個性的だ。「役のつくり方と本の読み方は似ている」と語る一言だけでも、人はひきつけられ、関心をかき立てられる。

自分なりの「ヘソ」が見つかると面白い

『柔らかな犀の角』
『柔らかな犀の角』

   俳優は演じるにあたり、役の、自分にとっての入り口を探すと、その紹介コーナー「著者に会いたい」にある。本も同じだと山崎さんは話す。「ここがヘソだという、自分なりの入り口が見つかると面白い」。頭の中でなんとなく考えていることとスパークするという。

   その読書法は、朝8時ごろのベッドの中から。うとうとしながら読むのだそうだ。これが支離滅裂でつじつまが合わない。「夢で読んでるんですね。でも読書って、そういうものなんじゃないか。読み手ごとの世界ですよ」と言い切る山崎さんを、記者は磨きのかかった「活字中毒」者だと評している。

20冊ぐらいまとめ買い ハッとする1行も

   本のサブタイトルは『山崎努の読書日記』。週刊誌に月1度連載中の5年半分をまとめた。『犀』に触れたメーンタイトルは、若いころに気に入っていたブッダの言葉から。

   山崎さんは月に1度か2度、書店で20冊ぐらいまとめ買いをする。読むと「当たり」は初めの方でわかるが、終わりかけの1行でハッとする醍醐味も。「演技でもそう。気が乗らないまま舞台が始まって、ふとした拍子にはじけることもある」「瞬間のものだからこそ面白い」「失敗したって、安全な芝居よりはいいでしょう」という話に、ついうなずいてしまいそうな説得力がある。渋めの声まで聞こえてきそうだ。

   で、たとえば何を読んでるの? その個性派読書人が近ごろ、どんな本を選んだのか。きっと数あるのだろうが、いくつかは示してほしい。そこが2面などニュース面の人物紹介とはちがうところだ。読者への配慮が担当記者にあったら、もっとよかった。

   ほかには、資生堂の前田新造会長が日経で「運命を切り開く強い意思を学ぶ」として、何冊かをすすめている。『人間の條件』(五味川純平著、岩波現代文庫ほか)や『光と影』(渡辺淳一著、文藝春秋)などを、戦場と医療現場、自分では経験できない人生にひかれながら読んだ。山崎豊子や松下幸之助も愛読。『幸之助論』(ジョン・P・コッター著、高橋啓訳、ダイヤモンド社)も。企業の社会的責任を意識した経営論という。

(ジャーナリスト 高橋俊一)