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【書評ウォッチ】五輪のあり方を考えて 人種とスポーツ、商業主義

【2012年7月8日(日)の各紙から】7月27日開幕のロンドン五輪は、どんな大会になるのか。関連本をスポーツ評論の玉木正之さんが日経読書欄であげている。「黒人がすごいぞ」といった人種論、大会の肥大化と商業主義など。東京が2度目の五輪招致を進めていることも考えながら、大会のあり方についてじっくり読める。

「一言で語ることこそナンセンス」

『人種とスポーツ』
『人種とスポーツ』

   『人種とスポーツ』(川島浩平著、中公新書)は、人種論のナンセンスさをつく。400メートルリレーでは、日本記録よりジャマイカ記録のほうが速い。が、日本記録はドミニカ記録より速い。ジャマイカ「黒人」の多くが陸上競技に励んでいるのに、ドミニカの「黒人」は野球をやるからだという。

   マラソンや長距離走で強いケニアやエチオピアの「黒人」は一部の部族出身者。部族特有の生活文化が影響したとの見方だ。遺伝的要因は一般に考えられるよりはるかに小さいらしい。その運動能力を「一言で語ることこそ、ナンセンスなのだ」と評者は力を込める。

マーケティング、放送権料の急騰、大会の肥大化

   近年の五輪は、テレビ放送料やスポンサー企業の協賛金がふくれあがる。それは結局、商品の値段を押し上げて、消費者のふところから出ていく。引退後の身の振り方もふくめてカネを稼ぐことを意識する「気持ちプロ選手」はザラ。カネとスポーツの関係を切っても切れないところまでもってきた五輪の影響は大きい。

   この問題を扱ったのが『オリンピックと商業主義』(小川勝著、集英社新書)。第一回大会以来の五輪の収支決算を振り返る。国際オリンピック委員会(IOC)のマーケティング、放送権料の急騰、大会の肥大化なども検討する。

   今年のロンドン大会では、英国放送協会が全競技中継を計画。IOCは「アスリート・ハブ」と題した交流サイトを開設した。ボルトや北島らがIOC管理下のツイッターやフェイスブックで世界中と交流しはじめたことを玉木さんは紹介している。はたして、東京が招致をめざす2020年大会ではこれがどこまで進むのか。

   『東京オリンピック1964』(フォート・キシモト、新潮社編)は、戦争からの復興を世界にアピールした当時の写真や文章を集める。杉本苑子、三島由紀夫、北杜夫らが興奮や喜びを寄せた。

   今度、東京大会があれば「震災からの復興五輪」ということか。半世紀前と同様の「輝きや喜びにあふれた文章が並ぶだろうか?」という玉木さんの問いかけは、切実だ。

(ジャーナリスト 高橋俊一)