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霞ヶ関官僚が読む本
中国の歴史認識と米国の本音 日本外交はどう向き合うのか

   戦争の歴史を訪ねて、これからの日本の外交政策を考えたい。

   2012年末の総選挙の結果、安倍自公政権が誕生した。総選挙では、消費税、原発、TPPに加え、外交政策についても大きな争点になった。

   現在の私の職務は、外交政策の遂行からは距離があるが、一人の日本人として大きな影響を受けることから、これを機に日本の外交政策を考えてみたくなった。

非常に極端な中国の歴史上の事例

『戦争の歴史・日本と中国』
『戦争の歴史・日本と中国』

   その前提として、まず、現在、非常に緊迫している日中関係の相手方、中国について歴史を踏まえて考察するため、『戦争の歴史・日本と中国』(黄文雄)を読んでみた。この本には、中国と近隣諸国との長期的な共存は不可能ではないかという気にさせる非常に極端な歴史上の事例が数多く出てくる。その一方で、これらの事例が、あくまでも中国の正史、つまり、後の王朝が前の王朝を滅亡させた正統性を論証するために書かせた歴史書に出てくるものであることも述べている。

   ただ、これらの事例が事実か否かにかかわらず、中国における歴史認識というものが、こうした極端な事例を事実と認めさせることにあるということ自体が、現在の中国の日本に対する対応に現れているように思えるし、今後の日中関係を非常に難しくするように思えてならない。ちなみに、同じ著者の本には『中国・韓国が死んでも教えない近現代史』があり、こちらはまさにその「歴史認識」の具体例だ。

   では、その中国を牽制しうる国力をもつ米国は、どうだろうか。こちらも、戦中について『アメリカの日本空襲にモラルはあったか―戦略爆撃の道義的問題』(ロナルド・シェイファー)と『ルメイの焼夷電撃戦 米軍資料』(奥住喜重、日笠俊男)、戦後について『戦後史の正体』(孫崎享)などを読むと、米国の対日政策は、常に冷徹に米国の国益を守るという観点から決定されているのであって、決して善意のみに基づいているわけではないということが明らかだ。

日本は国力を維持していけるのか

   そこで、少し頭を冷やして『日本の領土』(芹田健太郎)も踏まえて比較するならば、戦後、アメリカは紆余曲折がありながらも、小笠原、沖縄といった領土を日本に着実に返還してきた歴史がある一方で、中国では、チベットも内モンゴルも今ではすっかり一つの中国の一部とされていることに留意せざるを得ない。

   経済的な面に目を向ければ、それぞれ様々な問題を抱えながらも、中国は今も発展を続けており、米国も引き続き重要な経済的パートナーであり続けると思われる。

   これらを踏まえれば、日本の外交政策はどうあるべきだろうか。私には、日米同盟を基軸としつつ、中国との戦略的互恵関係を築くというのは極めて現実的な路線に思える。

   しかし、日米同盟を維持するにしても、中国との戦略的互恵関係を築くにしても、その同盟なり、互恵関係なりが相手国にとって利益となるだけの一定程度の国力、例えば経済力、文化的な影響力あるいは物理的な防衛力といったものが、日本に求められるのではないだろうか。その観点から、『デフレの正体』(藻谷浩介)を読むと、高齢化し人口減少に向かう日本が国力を維持していけるのか非常に心配になってしまう。

   このように、今を生きる多くの日本人と同じく、日本の行く末について考えれば考えるほど、私の憂いは深くなる。

総合官庁(課長級)Paper Chaser

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【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。