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【書評ウォッチ】働き盛り・職なし・未婚・友達なし 「スネップ」急増の深刻な問題

   「結婚せず」「他人と接さず」「働かず」の、そういう人の存在は、もはや誰もが社会のあちらこちらに感じることかもしれない。仕事をあきらめた若者たち「ニート」とは別の無業者が急増中だと警鐘を鳴らす『孤立無業(SNEP)』(玄田有史著、日本経済新聞出版社)を朝日新聞がとりあげた。

   スネップ・なんだか人気アイドルグループに似た略語だが、働き盛り年齢の未婚無業者で家族以外とはほとんど接しない人々。162万人というから、とんでもない社会問題だ。人間の孤立と働く意欲の関係を問う本の帯には「つながれ、外へ。生きのびるために!」の呼びかけが。深刻な話だ。【2013年10月20日(日)の各紙からⅠ】

仕事、スポーツ、旅行、ボランティアどれもしない

『孤立無業(SNEP)』(玄田有史著、日本経済新聞出版社)
『孤立無業(SNEP)』(玄田有史著、日本経済新聞出版社)

   著者はニートの存在を問題提起した研究者。ニートが15歳から34歳の定職のない人を指すのに対し、スネップは20歳以上59歳以下の学生・生徒を除く未婚無業者のうち、ずっと一人か家族だけと暮らす。通学も通勤もせず、家族の支援にもっぱら頼る。

   生活力がないから、親が衰えれば、いずれは生活保護しかない。社会的コスト増大の財政問題ばかりか、人のあり方を考えると……。

   仕事だけでなくスポーツ、旅行、ボランティアのどれとも無縁。外出さえ、めったにしないという。世間との接点がないから目立たないが、著者が総務省の労働力調査を基にはじき出した60歳未満の未婚無業者255万人中の60%以上がスネップだそうだ。「一人ぼっち」「他人とのつきあいがない」「寂しい」といったイメージだ。

議論も対策も待ったなし、急がなければ

   男性がおちいりやすい、ニートやフリーターより急速に進みがちといった面もある。客観的な助言や刺激を与えてくれる友人がいないスネップの人々は普通、一人暮らしよりも家族と同居のケースのほうが働く意欲が低いらしい。「孤立と無業との根深く緊密な関係を、再認されたい」と、朝日評者の水無田気流さんも注意を呼びかける。

   一方で、スネップ研究には「ややこしい。ニートとの違いがはっきりしない」「怠け者の新しいレッテル貼りにならないかと心配」との批判もある。こんな疑問に、本は一つずつ答えながら脱出策をさぐっている。そうした議論も具体的な対策も急がなければならない。もう待ったなしの現状がよくわかる本だ。

   ミネルヴァ書房が医療や福祉から経済や教育まで広い範囲で論じられる「ケア」の意味を考えるシリーズを出す。その第一巻『ケアとは何だろうか』(広井良典・編著)が毎日新聞に。脱成長時代のキーワードを実例から掘り下げるチャレンジに価値がある。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

   J-CASTニュースの書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。