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【書評ウォッチ】鼓膜が破れても命をかける 元祖「あまちゃん」の甘くない現実

   朝のNHK連続テレビ小説「あまちゃん」のブームは年をまたいでも続いているらしい。これをきっかけに漁業への関心も高まるとよいが、テレビドラマではなかなか想像できない海女たちの実生活を見つめた『海女、このすばらしき人たち』(川口祐二著、北斗書房)が読売新聞に。「鼓膜が破れるのは海女の宿命」「海底でひっくり返した岩は、必ず元に戻す」と、知られていないことばかり。たくましさと悲哀、高齢化や磯の環境破壊。人気番組のむこうにある現実を考えてしまう。【2014年1月5日(日)の各紙からⅠ】

職業病と環境破壊

『海女、このすばらしき人たち』(川口祐二著、北斗書房)
『海女、このすばらしき人たち』(川口祐二著、北斗書房)

   潜水時間わずか50秒に命と生活をかける元祖「あまちゃん」を、25年にわたって全国に訪ねた記録だ。番組の舞台・岩手県久慈市小袖から下田、伊勢志摩、福岡県沖の小呂島までが出てくる。

   彼女たちは素潜り。出産直前までも。80歳をこえても。あるいは、職業病ともいうべき「聞こえ」なくなっても海に入るという。「岩を戻す」のは、磯場の環境を守るために海の底で昔から続けてきたことだ。これだけでも、すごい話。万葉の時代からたしかな生き方と暮らしぶりが日本中の磯辺にあることを本は教えてくれる。

   著者は三重県のエッセイスト。世界遺産登録をめざす動きも踏まえて、海女のすばらしさを文化財としてとらえる意義を強調する。70年代初めに漁村から合成洗剤をなくすことを提唱した人でもある。

世界遺産登録に日韓張合いも

   その環境破壊はいま、いっそう深刻だ。「開発行為や生活排水の垂れ流しが影響している」「これではどうがんばっても海女文化は衰退する」と、読売の評者・漁業経済学の濱田武士さん。この本はこれまで新聞の地方版などではとり上げられてきたのだが、ブームに乗って全国的な関心も高まる気配だ。豊かな海があってこそ海女たちの文化も成り立つ。著者も評者も熱望する漁場の復活に、番組視聴者ならずとも何かできないものだろうか。

   世界遺産登録の動きは、韓国でもあるらしく、日韓が張り合う可能性も指摘されている。すでに一部では激しい舌戦も。「すばらしき海女文化」を語るとき、すぐこういう摩擦が出るとは。やれやれという感じもする。海女をとりまく環境は、世相と世界の反映でもある。よい方向にと願うのは「あまちゃん」ファンだけではないだろう。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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