エイガ探偵団

中国の国営工場閉鎖 そのとき人々は…(四川のうた)

2009/5/ 9 09:27
(C)配給:ビターズ・エンド、オフィス北野
(C)配給:ビターズ・エンド、オフィス北野

   <四川のうた>舞台は中国・成都。軍用機の巨大国営工場(420工場)は、50年の歴史をもって2007年に閉鎖され、その土地は再開発マンションやショッピングセンターへと変わっていく。映画は、政治のうねりに翻弄されながらも、工場で働いていた人物の姿を通して、現代中国の半世紀を振り返っていく。

   実際に工場で働いていた人物とプロの俳優を織り交ぜながら、個人にスポットを当て、インタビューをするという形式で、歴史が語り手によって再編されるセミ・ドキュメンタリーの構成だ。ドキュメンタリーとフィクションの推進力を極限までに高め、境界を越え、強烈な迫真性の獲得に、ジャ・ジャンクー監督の哲学が垣間見える。インタビューが主体となると、映画的なダイナミズムが薄くなると思われるだろうが、合間に流行歌や詩を挿入する演出が壮大な叙事詩に彩りを加え、それを失わせない(工場近くの住宅の屋上で少女がローラースケートをするシーンなど、必見!)。

   様々な境遇を抱えた人物たちの記憶や思い出の中で、最も印象に残ったのは、チャン・タオが演じたスー・ナーという若い女性。彼女は登場人物の中で、唯一実際に工場で働いていない。彼女は先進諸国に追いついた高層ビルを背景に、両親が勤めていた工場にまつわる思い出を語るのだが、そのエピソードは監督が世界中に送るメッセージであろう。彼女の思い出は、国、政治、文化、宗教、価値観を飛び越え、必ずや人間の心の奥底に何かしらの動きを与えるはずだ。

   中国という国の一定の価値観の下で、必死に生きてきた者たちの瞬間瞬間の累積は、言葉では表せない感情を抱かせる。だが、この映画が賛歌であることに我々は上映終了後に確信し、ある者は再認識し、ある者は教えられるだろう。人間にとって最もかけがえのないものとは、どんなことが周りに起ころうとも、「必死に生きる」ということだと。

川端龍介

   オススメ度:☆☆☆☆☆


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