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人間生かせるシステム 低価格路線に勝てるか

   外食産業の闘いが熾烈だ。1997年には30兆円産業だったのが、いま25兆円と外食離れが止まらない。景気の後退がこれに追い打ちをかけ、行き着いたのが価格競争だ。しかし、それで本当に将来はあるのか。

   業績を伸ばしている店はある。全国144店舗の居酒屋チェーン「鳥貴族」は、この不況のさなか全店で売り上げをのばし、総額で昨年の1.5倍になった。「全品税別280円」という安さが売り。客が「どうしてこんな値段が出せるのか」というほど。

   秘密の1つは、有名居酒屋チェーンの近くに出店する戦略だ。広告費をかけず、客は口コミでくる。経営者は、「無料で市場を得られる。あちらがやっていけるなら、こちらもいける。安さは、不況のなかでは1つのセールスポイント」という。

マーケット自体は増えてない

   この1年で5億円近く売り上げを伸ばしたステーキ店チェーンがある。150グラムのステーキに、サラダ、デザート、スープ、食べ放題で1050円。ここも金をかけないスタイルだ。

   ステーキ店なのに座敷の店があると思ったら、元すしチェーンの店舗をそのままも。照明からテーブル、食器、ハシ、調理器具までそっくり居抜きだ。元イタめし屋、元居酒屋、元うどん屋......見かけはバラバラだが、年内に店舗を28から45にふやす計画だ。

   客は「内装食いにきたんじゃない。おいしくて安ければいい」「リサイクルはエコ」と支持する。店も「お皿の上だけの勝負」という。

   軒並み売り上げが対前年比でマイナスを続けるなかで、ファストフードだけがマイナスになっていない。外食産業にくわしい松坂健・西武文理大学教授は、こう分析する。

「ファストフードは手軽、カジュアル、便利さ。ファミレスや居酒屋は、決まりきったメニューと味で、わざわざ出かけていくだけの魅力がなくなった。コンビニの弁当と総菜に客をとられている」

   国谷裕子は、「そこで出てきた戦略が安さ?」
松坂教授は、「値段は一番わかりやすいですからね。しかし、ライバルから客をとっているだけで、マーケット自体を増やしてるわけではない」

「効率化」で忘れていたもの

   安さ追及でレッスンを得た店もあった。430店と全国一のラーメン・チェーン「幸楽苑」は3年前、390円を290円にした。人件費節約に工場で素材を加工し、店舗も機械化して、1年間で70店舗増やしたが、客は減った。

   5年前に9億円あった利益が3億円も減った。客にアンケートしたところ、「チャーハンが温かくない」「味が足りない」など、社員の意欲の低下が如実に出ていた。

   同社は4500人の従業員の研修を行い、人間の技量が生かせるようなシステムに改めた。また、支店長の給与を年収で80万円アップした結果、客が戻り、この1年で利益を2億円プラスにした。

   値下げをせずに新商品開発で乗り切ったのが、1400店舗のモスバーガーだ。売り上げが落ち続けるなかで、客へのアンケートで多かった「国産にこだわったもの」「安全」に着目して、国産肉のバーガーに挑んだ。 目標は390円。モモとカタだけだと国産肉では500円以上になってしまう。そこでウデとバラを加えたが、味が出ないといけない。半年かけて500通り以上の調理法を試して、国産100%のハンバーガーを作った。従来の売れ筋より70円高いが、売れているという。

   松坂教授は、「まっとうな経営努力です。効率化のなかで大切なものを忘れていたという反省がある。外食は人においしさを与えて元気にさせるもの。本来ヒューマン・ビジネスです」といった。

   なるほどかっこいい結論だが、価格競争が熾烈なのもまた現実だ。温かいサービスに目が向く日はくるのだろうか?

ヤンヤン

* NHKクロ―ズアップ現代(2009年5月21日放送)