「医者」鶴瓶の演技力 「嘘」じゃなく絶妙以上(ディア・ドクター)
(C)2009『Dear Doctor』製作委員会
<ディア・ドクター>コンビニ1軒ない、山あいの小さな村。その村で、ただ1人の医師である伊野は、村人から『神様仏様以上の存在』として、全幅の信頼を得ていた。
しかし、ある日突然、伊野は村から姿を消してしまう。その失踪をきっかけに、伊野という人間の存在が浮き彫りになっていく。その時、周りの人間たちは、伊野の「大きな 嘘」を知る。
力強い脚本を繊細なタッチで描きつつ、人間の壊れやすい心を剥き出しにした前作『ゆれる』が記憶に新しい西川美和監督の長編3作品目。今作は前作よりも物語の動きは落ち着いていて、ある種ベタな路線である。その分物語の世界には、すんなりと入り込みやすい。
今作の功は、主役に笑福亭鶴瓶を迎え入れた大胆なキャスティングに尽きる。ここまでルックスにインパクトがあり、誰もが知っている大芸人を主役に抜擢するのは勇気が必要だったに違いない。スクリ?ンに映る『秘密を抱えた小さな村の医師』が『笑福亭鶴瓶にしか見えなくなる』恐れがあるはずなのだが、どっこい 、「この伊野という医師を他に誰が演じられるだろうか?」とまで思わせる。絶妙というよりも、なにやら神がかっている感じさえ受けてしまう(2009年度の主演男優賞決定!?)。作品全体にくどくない上質のユーモアが漂うのは、キャスティングによる効果に違いない。
西川監督のオリジナリティーは、とりわけラスト付近に炸裂し、物語の展開に集中している観客に驚きを――映画ならではの驚きを与えるだろう。
へき地医療などの医療問題、医者の本質とは何か? というシリアスな主題を持ちつつ、作品は常に温かい空気に包まれている。そして作品の進行と共に伊野医師の抱えた「嘘」が浮き彫りになっていく。その「嘘」が罪であるのかどうか? 説明し過ぎないことにより、観客が自由に解釈できるように委ねられている。『ディア・ドクター』というタイトルも、その意味は広く、各々が意味付けが出来るだろう。
解釈はどうあれ、伊野医師の医者離れした屈託のない笑顔を、観客は上映終了後に、1度は想い出すだろう。
川端龍介
オススメ度:☆☆☆☆