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「次世代照明ウォーズ」また追い越される開発国・日本

   次世代照明をめぐる熾烈な闘いが始まっている。発光ダイオードを使った「LED」、面全体が光る「有機EL」といった、寿命が長く消費電力が少ない照明機器だ。開発したのは日本だが、各国の追い上げがはげしく、ビジネスでもトップを守れるかが懸念されている。

LED、有機ELで2兆円市場

   LED電球は昨年から発売され、まだ1個3000円程度と高いが、消費電力は従来の6分の1で10年もつ。トータルで見ればはるかに安い。全店の照明をLEDにしたあるハンバーガーチェーンは、電気料金を年間80万円削減できるという。

   LEDは製造が簡単で、全部の部品を自前で作る必要がないから、電気メーカー以外の参入もある。そこに海外のメーカーも加わる。

   韓国のSAMSUNGは日本国内の大規模商業施設などに売り込みを始めている。大量生産で価格を抑え、日本製の半額だ。韓国政府の後押しがそれを可能にしている。工場建設には減税、官民による研究機関が新製品の開発を続ける。

   6月開かれた広州国際照明展覧会では、中国メーカーの急成長ぶりが目を惹いた。中国政府はLEDを国家重点プロジェクトとして、各地に生産拠点を作っている。企業への資金提供も手厚く、雇用も生み出すとしている。

   これらはすべて2020年に2兆円規模になるといわれる世界市場をにらんだ動きだ。これに比べて、日本の動きは鈍い。経産省は「日本も今やらないと間に合わない」と、将来有望な企業を支援する補助金300億円を確保したが、対象は40社にすぎない。

   日本はこれまでにも、液晶パネル、DVDレコーダー、カーナビをつくり出しながら、その後どれも後発に追い抜かれている。なぜか?

   東大の小川紘一特任教授はこう解説する。

「理由は2つあります。液晶パネルでは果敢な設備投資が必要だったのですが、政府のサポートはありませんでした。カーナビとDVDはデジタルだから世界的な分業構造になることが必至だったのに、日本企業はそれを理解できなかったのです」

いまや国家間競争

   有機ELはもっと危機的だ。面全体が光る照明を開発したのは山形大の城戸淳二教授。カギは薄さにある。曲げることもできるので、携帯からテレビディスプレー、電子ペーパーと応用範囲が広い。

   山形県は大学、企業の共同研究に40億円を投じたが、今年2月、企業が試作品を完成させた時点で、「今後は民間がやるべきだ」と予算を削減してしまった。城戸教授は「悔しい。韓台中は大きな予算をつけて研究している。このままでは追いつかれ、追い越されるだろう」と言う。

   ドイツでは開発を目指すいくつものメーカーを国が調整して、共同研究に持ち込んだ。各社は企業秘密を守りながら、明るさ、大きさ、発光材料などそれぞれの得意分野を生かした開発をしている。

   城戸教授は「ドイツには大きな産業にしようという明確な意志がある。企業の枠を超えて、効率よく研究開発しないと絶対に負けますよ」と断言した。企業間競争ではなく、国家間競争なのだと。そんな中で技術とビジネスを両立させることはできるのか。

   小川教授はこう言う。

「長期の研究投資や人材では日本はまだ勝てる。国際的な分業構造の中では、コアの技術を握ることが肝心で、そのためには国が強力な支援をしないと勝てません」

   経産省の補助金300億円は事業仕分けでも取り上げられた。「特定の企業の利益のために税金を?」と国民は抵抗を感じ、企業は儲かれば儲けっぱなし。ここらあたりに問題がありそうである。

NHKクローズアップ現代(2010年7月5日放送「次世代照明ウォーズ~問われる日本の国際競争力~」)

ヤンヤン