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「1億総節電」の落とし穴―消費低迷、生産縮小で景気大丈夫か

   福島第1原子力発電所事故や福島第2原発、広野火力発電所の停止で、極端に低下した東京電力の電力供給能力。また、全面停止した中部電力の浜岡原発。この夏は電力不足が懸念され、政府は節電キャンペーンに必死だが、景気に影響はないのか。

   キャスターの国谷裕子は「原発事故の発生で全国的に家庭はもちろん、企業にも節電が求められています。しかし、一方では企業の節電は企業活動の収縮にもなりかねません。電力不足ドミノも懸念されるこの夏の電力需要をどう乗り切るのか。需給双方での取り組みにスポットを当ててみました」と語って、番組をスタートさせた。

企業の3分の2に節電努力義務づけ

   電力各社は火力発電所の復旧や再稼働、新規ガスタービンなどの増設を急ピッチで進めている。コンビニエンスストアのローソンは東電管内のすべての店舗で冷蔵庫の明かりを消して25%の節電に成功している。ある中小企業は電力需要が少なくなる夜の10時から翌朝7時までの操業に切り替え、工場内は30度以上の高温になっているがクーラーはつけない。本社機能を九州に移転させる会社も出てきた。

   深刻なのは命を預かる医療現場だ。自家発電でどれだけ対応できるのかの実証実験も始めている病院もある。吉武洋輔(NHK経済部記者)は「鉄道や病院などは節電努力の対象外とされているが、それでもその数は全国にある企業の3分の1。残りの3分の2の企業や事業所は節電努力が義務づけられる」と解説する。

GDP6割の個人消費も落ち込み

   国谷「電力需要は40年前と比べると2.5倍、この10年間でも1.5倍となっています。今回の節電は企業活動の足を引っ張ることにならないのでしょうか」

   第一生命経済研究所の首席エコノミストである熊野英生が答えた。「ネガティブ・フィードバックが懸念されます。企業活動が落ちれば雇用が減り、雇用が減れば家庭の収入も減ります。日本の電力需要の半分以上は家庭で、やはり家庭での節電が大きなカギとなりますね」

   国谷「家庭用エアコンの送風だけで扇風機並みの涼しさが得られると言われています。電力の消費大国日本でのこれからの生活に、改めて考えて見る必要があるのではないでしょうか」

   企業活動が落ちれば経済が縮小するというが、個人消費はGDPの6割を占めていて、家庭の節電、さらなる消費低迷こそ景気の足を引っ張ることになりかねない。

   電気をムダに使うことはないけれど、これまで「オール電化」などといって、ちょっと電力供給が減るとままならなくなる暮らしを押しつけてきた電力会社に問題はないのか。まず家庭がガマンというのでは、単に政府の節電キャンペーンのお先棒担ぎの番組である。まあ、これをきっかけに電気浪費社会を改め、原発依存を見直すというのも悪い事じゃないけれど…。

ナオジン

NHKクローズアップ現代(2011年5月26日放送「乗り越えられるか『電力危機』」)