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マータイさん東北被災地に残した最後のメッセージ「不屈の精神」

   「もったいない」という日本語を世界に広めたケニアの環境活動家、ワンガリ・マータイさんが先月(2011年9月)末、がんで亡くなった。71歳だった。8日ナイロビで行われた国葬には1万人が参列。変革につくした希有の才を惜しんだ。

   死の3週間前、毎日新聞の七井辰男記者がインタビューしていた。映像ではとても病気には見えず、アフリカの危機を熱っぽく訴えている。これがマータイさん、最後のメッセージになった。

「私たちは連帯しており、気持ちはひとつです。孤独ではありません」

   英植民地下のケニアは貧しかった。独立後も貧困は続く。人々は木を切り、干ばつ、食糧難の悪循環に陥る。国土の森林面積は30%から2%にまでなった。

   大学教授だったマータイさんが運動を始めたのは1977年だ。「できないことを心配するよりできることを考えよう」と、女性たちと木を植え始めた。以来34年、ケニア山麓からはじまった「グリーンベルト運動」はアフリカ全土に広がって、延べ10万人を動員し、4500万本を達成。04年にはアフリカ女性として初のノーベル平和賞を受賞した。

   しかし、マータイさんの危機感はつのる一方だった。気候変動や貧困に加えて、経済のグローバル化で新興国資本による新たな開発の波が押し寄せたからだ。その象徴が隣国エチオピアとソマリアだ。貧困と環境破壊と飢餓の悪循環が起っている。インタビューでマータイさんは言う。

「東部の干ばつは進み、砂漠化に歯止めがかからない。東アフリカの乾燥地帯の森林は生命線だ。荒廃を食い止めよと何年も警告してきた。しかし環境に注意がいかなかった。結果は壊滅的。これは人災なのです」

   さらに「これまでの100倍も木を植える必要がある。倍の努力を続けましょう。森林を守ることが東アフリカを守る最後の道なのです」とも話す。この後も、亡くなる1週間前まで精力的に活動していた。

   インタビューの半分は東日本大震災へのメッセージだった。震災の映像には「打ちのめされた」という。しかし被災地の人たちに向けてこういった。

「空気も水も食べ物も自然からの授かり物です。感謝すること、これがモッタイナイ精神のもっとも大切なもの。私たちは連帯しており、気持ちはひとつです。みなさんは孤独ではありません」

福島・大玉村の酪農家「マータイさんに負けないくらいのエネルギーある」

   マータイさんは05年以来何度も来日して、「自然との持続的な共生」に共鳴する植樹活動が各地に起っている。そのひとつ、流山市のNPOが先頃、記録映画の上映会を開いた。画面でマータイさんは「モッタイナイ精神を実践すれば、貴重な資源を奪い合うことはなくなる」と訴えていた。

   福島・大玉村で牛1万頭を飼う国分俊作さんは5年前、シンポジウムでマータイさんと同席した。震災による出荷停止で月2000万円からの赤字になったが、マータイさんの不屈の精神が支えだったという。いま循環型の農業に挑んでいる。「みんなのためになると信じている。マータイさんに負けないくらいのエネルギーがあるんじゃないか」

   マータイさんの活動を見守ってきた明治学院大の勝俣誠教授は、「木を植えるのは入り口。木がなくなるとどうなるかを発見していく過程を重視した。木を育てることは、人を育てる、生活を打ち立てる、そうすれば森を守れると、スケールの大きな活動だったんです」という。また、「彼女は困難にも常にポジティブだった。いまこそ考えてと、福島に向けたメッセージに聞こえた」と話す。

   アフリカの厳しい自然に比べれば、日本はおそらく楽園だろう。 しかし、彼女はタネをまいていった。自然が豊かなゆえに、時に粗末にあつかっていることを、いみじくも気づかせてくれた。ありがとうマータイさん、タネは育っていますよ。

NHKクローズアップ現代(2011年10月20日放送「マータイさん最後のメッセージ」)

ヤンヤン