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お婆ちゃんの知恵で電気生み出せ!すきま風発電、雨どい発電

   雨どいを流れる雨水の力を利用した水力発電、部屋のすきま風で電気を起こす風力発電―。お年寄りや自然界の知恵を新しいテクノロジーに結びつける取り組みが始まっている。「太陽の熱とか光は知恵の宝庫。自然界はその知恵を借りて小さなエネルギーで循環を駆使している。この知恵の宝庫を科学の目できちっと見て、テクノロジーとしてデザインし直したい」(取り組んでいる研究者)

   地下資源を利用した科学技術から自然の知恵も借りた多様な科学技術へ。今、そうした時代にきているのだろう。

   90歳前後のお年寄りが働き盛りだった1960年ごろの家庭のエネルギー消費量は、今の半分以下だったという。そんな時代の暮らしの知恵をお年寄りから聞き取り、新しいテクノロジーに生かそうという取り組みが東北大大学院の研究チームで進んでいる。

便利なだけの暮らしは楽しくない

   研究チームの古川柳蔵准教授が宮城県の山あいで農業を営む80歳代夫婦を訪れた。山あいの湧水を利用するための水路を作り、夫婦が小舟と呼ぶ上下2層の水槽に水を引き込んで利用する。上段の水槽は飲み水、下段は野菜や食器洗いに使う。研究チームは130人以上のお年寄りから聞き取った知恵を先端技術にどう生かすかの研究している。すでにそうして作られた作品が東北大大学院の「エコラボ」に所狭しと置かれている。

   たとえば、「家は生産の場」をキーワードに、家の中で可能なさまざまな発電技術があった。エアロバイク型発電機、部屋のすきま風で回るマイクロ風力発電、雨どいを流れる雨水の力を利用した水力発電、近所同士の味噌や醤油の貸し借りからヒントを得た持ち運びできるポータブルバッテリーなどだ。

   「省エネやエコロジーの技術では日本は世界の最先端。その中でなぜあえて90歳の人々の知恵を借りようと思われたか」と聞く国谷裕子キャスターに、研究メンバーの一人で、環境科学が専門の石田秀輝教授がこう話す。

「残念ながら環境劣化はどんどん進んでいます。今の人たちの潜在意識には利便性がすごく強いですが、同時に自然を強く求め楽しみも求めている。楽しみはまわりに山ほどあるはずです。
   そこがきっかけなのですが、90歳の方たちが必ずおっしゃるのは、『昔は大変だったが、楽しかった。便利になったけれども、今の人たちはかわいそうだね』と。その楽しみの構造って何なのか、それが最初の動機ですよ」

自然をちょっといなして使う満足感

   国谷「マイクロ風力発電と楽しみはどう繋がるのですか。そこが分かりにくいのですが…」

   石田「今のテクノロジーは、テクノロジーそのもの効率化だけを測るモノサシが多く使われていて、それなら風力発電は大きいほどいいということになります。しかし、それがわれわれの豊かさに繋がるのだろうか、ちょっと違うのではないかと思うんです。
   楽しさ、豊かさの構造には、自分が関与して電気を作る。作った電気を自分で使う。そうすることで心が豊かになり、楽しくなるという概念があるわけで、そういうモノサシで測れば、軒先でクルクル回る風力発電があってもいいという発想につながっていくんです。
今のテクノロジーは自然を力まかせに制御しようという発想。そうじゃなくて、自然をちょっといなして使う。そういうことが新しいテクノロジーの形になると思っています」

   自然の仕組みを生かしたビジネスの開発は海外でも進んでいて、蚊の口をもった痛みの少ない注射針の開発もその一つだ。こうしたビジネスモデルは「ブルーノート」といわれ、10年間で1億人の雇用を生み出すという研究者もいる。石田は最後にこう指摘した。

「本当は、大きな自然の循環のなかにいるのに、われわれはそれを忘れてしまった。蛇口をひねれば水が出る。スイッチを押せば電気がつく。おカネと利便性というモノサシではかり、ブラックボックスをいっぱい作ってしまったんですね。
   自然の循環の中に豊かな暮らしがあることを見直す必要があるんじゃないでしょうか。そんな自然観を持っているのは先進国ではおそらく日本人だけ。それを文化に醸成したのは江戸の粋の概念。それを今の世界で組み直すことが求められているとおもいます」

   自然をねじ伏せるだけに腐心してきた科学技術。発想の転換には科学技術の知識だけでは足りない。哲学や文学など人文科学の研究も必要なのかも…。

モンブラン

NHKクローズアップ現代(2012年3月14日放送「90歳がかえる未来のテクノロジー」)