森光子さん「近親者だけで静かな別れ」階段を下りていくような死
司会の小倉智昭が「芸能界でお母さんと慕われていた森光子さんが10日（2012年11月）に亡くなっていたことがわかりました」とさびしそうに番組をスタートさせた。すでに近親者のみで密葬が行なわれていて、お別れの会は後日開くという。「とくダネ！」はオープニングから1時間19分ぶっ通しでさまざま映像を並べて追悼した。92歳だった。
「放浪記」でんぐり返しできなくなって「申しわけない気持ち」
その足跡はいわずもがな。舞台「放浪記」の2017回は単独主演舞台の最多記録だ。芸術座を拠点とした舞台、テレビでは「時間ですよ」1970年TBS系）などホームドラマ、ワイド「3時のあなた」（フジテレビ系）や「NHK紅白歌合戦」の司会もつとめた。
1920年（大正9年）京都の割烹旅館に生まれ、いとこの俳優・嵐寛寿郎の縁で14歳で映画に出演した。21歳のときに太平洋戦争が始まり、戦地慰問では歌を歌った。舞台、映画ではいつも脇役で、「あいつよりうまいはずだが、なぜ売れぬ」と川柳に詠んだほど長い下積みが続いた。
41歳のとき、東宝の菊田一夫に 「放浪記」の主役に抜擢されて花が開いた。林芙美子が森光子に乗り移った。劇中の見せ場のひとつ、でんぐり返しのシーンは61年の初回から続いたが、87歳 の1900回のときできなくなった。やむなく中止。1300回一緒だった米倉斉加年さん（78）が「でんぐり返しの最後のとき、失敗したときの拍手が違った。忘れられない」と話す。本人は「寂しいのではなく、申しわけない気持ち」といった。
ジャニーズなど若い俳優とも交流があった。だれかれの区別なく気配りの人で、公演の本番前のお茶会は名物だった。「3時のあなた」では田中角栄元首相とのインタビューや美空ひばりの出演映像もあった。芸能生活80年近く。61年芸術祭文部大臣賞、05年文化勲章、09年には国民栄誉賞を受けている。
