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「そのアクセントやばくね?」急速に変わってきた日本語!欽ちゃんは支持「いいんじゃない。個性ですよ」

   コメディアンの萩本欽一さんは今春(2015年)から駒澤大学の学生になった。若い学生との触れ合いは刺激的だが、彼らの使う言葉のアクセントに戸惑うことが多いという。「クラブ」はクにアクセントがなく、「クラブ」と平板だし、「雨じゃね」など聞きなれない言葉が飛び出す。

   欽ちゃんの有名な「なんでそうなるの」も、本来のアクセントをはずしたことで笑いにつながった。しかし、いま街で聞いても、「スニーカー」もニーカーの部分で音が上がったり、で「ニー」だけが強かったりする。実に多様なアクセント・抑揚が通用している。

   放送や駅のアナウンス、教育現場などの「基準」となってきた「日本語発音アクセント辞典」が18年ぶりに見直される。「基準」の拠り所は「多くの人に伝えられる」ことだが、これがひとつではなくなっている。「辞典」は大改訂になりそうだという。

「日本語発音アクセント辞典」18年ぶり見直し

   日本語はもともと地方によって方言の違いが大きい。出身地が異なると言葉がカベになった。ために明治政府は東京の山の手言葉を基準に標準語教育を進め、とりわけ軍隊は標準語できびしく統制された。戦後共通化はさらに進み、高度成長の下支えになった。

   それがいま多様化している。首都圏の駅のアナウンスを読んでいる声優の田中一永さんは、出身地「深谷」のふにアクセントがある標準読みに違和感があった。地元では「かや」にアクセントを置く。鉄道は地元読みに修正した。同様の例で「辞典」が両方を容れたものもある。

   「辞典」編纂にもあたるNHK放送文化研究所の塩田雄大さんは、「共通語には幅がある」という。若い人たちのイントネーションが平板化しているのも、「労力を少なく」という自然の流れなのだと見る。たとえば、「やばくない?」という のは疲れる。「やばくね?」なら平板だし、質問と同時に同意も求めている。「辞典」には7万語があるが、その40~50%は平板型だという。

   むろん、基準はひとつに絞るべきだという考えの人も多い。視覚障害者に音読ボランティアをしている松本久美子さんは、日本語は同音異義語が多く、基準を大切にと訴える。とくにテレビが、違うアクセントを繰り返すことで基準がズレていく「刷り込み現象」が目につくという。気がつくと電話する。「NHKにも電話しました」

若者が生み出す新しい方言!都会でわざと地元言葉

   戦後70年も継続的に言語調査が行われているところがあった。庄内平野の真ん中・鶴岡市では、言語学者らが700人を対象に共通語の普及率を調べていて、 1950年には34%だったものが、2011年には99%になった。その一方で、失われた方言やアクセントの新しい使い方が生まれていた。

   吉幾三のヒット曲「オラ東京さいぐだ」の「さ」は本来、方向や場所を示すものだった。それがいま「先生さ言う」「教師さなる」「6時さ起きる」のように使う。他所の土地へいったときも、あえて地元言葉を使う。すると「何それと、うげる(受ける)」のだそうだ。いずれも若者の性向で、方言の再生産ともいえる。

   萩本「いいんじゃない。個性ですよ」

   塩田「共通語と方言を使い分けて、自分のアイデンティティーを出しているんですね」

   萩本「話が柔らかくなるから、ボクは方言をよく使った。有名になったとき、『出身はどちら』と聞かれた(欽ちゃんは東京っ子)。いまもアクセントがあるらしい」(笑い)

   塩田「『辞典』に載ってないものはダメというのではなくて、これをきっかけに、自分がどういう言葉を使うかを考えるヒントにしてほしいです」

   萩本「ホッとした。守れっていう話かと思った。お笑いは基準があって、それを外すから笑いになるんだからね」

   「汚職事件」の話をしていたら、「どこのお食事券?」と横やりがはいって、この2つがまったく同音であることに驚いたことがある。4文字でもこうなのだから、2文字、3文字の同音異義語で、わずかな抑揚の違いで区別しているものがどれほどあるか。「辞典」ではいま5500語を集中的に議論をしているそうだ。正しい音を守る努力に頭が下がる。

ヤンヤン

   *NHKクローズアップ現代(2015年10月8日放送「『正しい』アクセント 誰が決める?」)