浅田真央「最高の演技をして終わりたい」ベテランになって知った「休みながら滑る」

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   女子フィギアスケートのシーズン最後となる世界選手権は7位に終わったが、そこにはいつもの深刻そうな浅田ではなく「笑顔の真央ちゃん」がいた。「クローズアップ現代+」にもこう話す。「まだまだ自分がやりたい演技、選手として滑れると思うし、挑戦していることが自分は嬉しい」

   休養中の昨年(2015年)2月、浅田は東日本大震災の被災地・宮城県石巻市にいた。仮設住宅での暮らしを余儀なくされながらも、リンクに向かう子供たちのなかに、津波で祖母を亡くした少女がいた。彼女の作文に「おばあさんがみているからいっしょうけんめいえがおでがんばる」とあった。読んだ浅田はこう話しかけた。

「天国に行って姿は見えないかもしれないけど、たぶんいつも一緒にいると思うし、(あなたが)頑張ってる姿を見ているだけでたぶん喜んでいると思うから。頑張ってほしいなって思います」

   子供たちのひたむきな姿が浅田の心を動かした。復帰を表明したのはそれから3か月後のことだった。

やっと納得できた「練習も疲労回復も以前のようにはいかない」

   浅田が競技復帰で掲げた目標は「最低でも復帰前の状態に戻すこと」。しかし、1年間のブランクの影響は想像を超えていた。氷に乗ってたった15分しかたっていないのに、疲れを感じて「ちょっと休憩しとこう」とイスに座り込んでしまった。「小さいころは何時間でも滑りたい放題滑ってたけど、今はちょっと考えながら滑ってる」と浅田は話す。

   25歳。ベテランと言われる年齢に達し、疲労の回復が思うようにいかないらしい。膝や腰に痛みも感じ、練習後のストレッチにもこれまで以上に時間をかけるようになった。

   シーズンが始まってからも試行錯誤は続いた。練習不足がたたって感覚にズレが生じミスを連発する。復帰前の演技には遠く及ばなかった。昨年末の全日本選手権でも感覚は戻らず、復帰の選択は正しかったのか迷いが生じた。「自分の思うような演技ができなくて、なぜか自分でも考えてしまって悩んでしまって、結構悩みの方が強くなってしまった」

   そんな浅田はある覚悟を胸に家族を呼び寄せた。NHK杯(2015年11月)でのことだ。「最高の演技をして『笑顔』で引退しよう」と心に決めていたが、結果は3位で浅田に「笑顔」はもどらなかった。「自分の滑りは最後までできたと思ったけど、『ちょっと待てよ、これが最後の演技だったら、自分が納得しないだろうな』と思って。終わるんだったら、最高の演技をして終わりたい」

SPで出遅れても悲壮感なくのびのびフリー

   浅田はかつてタッグを組んでいたローリー・ニコルさんに再び振り付けを依頼することにした。リンクで疲れ切った浅田を見たノコルさんは、こう声を掛けた。「楽しんで。楽しむことを忘れないで。とても大切なことよ」

   ローリーさんは演技についても細かい修正を求めた。象徴的なのが演技冒頭の恋しい男性を待ちわびる場面だ。浅田はいつもの癖で、2回まばたきをしてしまった。するとローリーさんは言った。「あなたは顔を動かすとき、いつもまばたきをする。そのせいで私は現実に引き戻されてしまう」

   目を見開き、愛する男性を待つ女性の思いをまっすぐに表現することを求めたのだ。

   そして迎えた世界選手権。浅田はショートプログラムで9位と出遅れたが、悲壮感はなかった。翌日の公式練習に浅田の姿はなかった。「休養」をとったのだ。「10代の頃は100%練習に参加していたけど、今は逆に『休みます』みたいなことも大切だと思います。考えることも、練習することも忘れたりという時間を持てたので良かった」

   気持ちも切り替えて臨んだフリーで今季自己最高点をマークした。

   杉浦友紀キャスター「なぜか浅田選手の涙や笑顔に多くの人が心を打たれてしまう。これはなぜなんでしょうか」

   子供の頃からフィギアスケートを見続けてきたゲストのミッツ・マングローブが言う。「現在のよりどころのない時代の中で、ちょうど集約できる存在としてフィットしてしまったんだろうなと思います」

   世界選手権の最後に見せた笑顔は、新たな自分に信頼を持てたということだろう。

ビレッジマン

NHKクローズアップ現代+(2016年4月11日放送「浅田真央 笑顔の理由」)

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