2024年 4月 20日 (土)

番狂わせアメリカ大統領選!トランプ勝利も想定していた週刊文春・・・記事作りうまい

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   ドナルド・トランプ氏が45代アメリカ大統領に就任することが決まった。最悪と最低の大統領選は最低が制した。世界中のメディアが『衝撃的』『驚愕』という表現で、トランプショックの大きさを表した。トランプ勝利はアメリカメディアの敗北も意味する。ほぼすべてのメディアはしたり顔でヒラリー・クリントン支持を表明した。彼らは民意を汲み取っていなかったばかりか、メディア不信を増大させ、反発を招き、トランプ支持への流れに手を貸してしまったのである。

   日本のメディアだが、11月10日(2016年)の読売新聞の1面に掲載された国際部長・飯塚恵子氏の冒頭の言葉が、メディアがいかに民意に無知であったかをよく表している。<米国で、こんなに怒りや不満を抱え、「疎外」されていた人が多かったのか、と驚くばかりである>

   11月5日に放送されたNHKスペシャル「揺らぐアメリカはどこへ 混迷の大統領選挙」は、白人労働者層がアルコールやドラッグに溺れ、死亡率が増加するオハイオ州を取材していた。そこで検視官がこう語っていた。「こんなひどいのは経験したことがない。ここは教育もなく仕事もなく、未来や希望もない人々の末路です」

   こうした人たちをヒラリーは「トランプ支持者はデプロラブル(惨め)な人々の集まりだ」と逆なでする言葉を吐き、自身の私用メール問題もあり、自滅していった。

   トランプ陣営の選挙方法のうまさも際立っていた。選挙によく行く有権者ではなく、普段はあまり選挙に行かないが現状に不満を持つ有権者を掘り起こし、トランプ支持を訴えて投票に行かせた。この手法は日本の野党がすぐに見習うべきものであろう。

   少し週刊誌に触れよう。トランプ当確が伝えられたのはきのう9日の夕方。午前中はまだヒラリー優勢と米メディアは報じていた。これほどの大ニュースだが、残念ながら週刊文春、週刊新潮は締め切りが火曜日で間に合わない。さぞかし臍をかんでいることだろうと思って、けさ10日の新聞を見ると、週刊文春の広告の中に小さいながら「『トランプ応援団』だ!全員集合」という見出しがあるではないか。

   2ページの記事で、冒頭「泡沫候補が、ここまで来るなんて誰も思っていませんでした」というジャーナリストのコメントがあるが、これは「よく戦ったが、結果は」とどちらにもとれる表現だ。イーストウッドやタイソン、ロッドマンたちのトランプ支持のコメントや、11月7日にトランプと会ったといわれる(週刊新潮によると石原慎太郎氏も同行する予定だったが、血圧が高く断念した)、亀井静香氏の訪米目的を語るコメントがあるが、これもトランプが負けてもいいような内容である。

   末尾の国際政治学者の三浦瑠麗氏のコメントの中に「大統領選の結果を見れば分かる通り、トランプ的なものを支持したのはアメリカの半分で、残りの半分の世界観とは完全に分断してしまったのも確かです」とあるが、これもどちらともとれる。結びは「新大統領の前途は厳しい」。新大統領と書いてあるだけだから、トランプが勝った場合でもいいように、この表現にしたのであろう。

   だが、ザッと見たところヒラリーに関しての記事はないようだから、トランプ勝利の可能性を考えて記事づくりをしたに違いない。私も月曜発売の週刊誌をやっていたから分かるが、選挙やスポーツの結果を予測して記事を作ることは難しい。まして今回のような接戦の大統領選を予測し、記事を作ることは難しかったはずである。内容はともかく、週刊文春の記事づくりの巧みさに脱帽である。(もっと広告を派手に打てばよかったのに)

楽観的すぎるニューズウィーク日本版「ごく地味な何もできないトランプ大統領」

   予想せざるトランプ大統領誕生に、安倍首相は特使を出し、新聞報道によれば17日にも会談の予定だという。オバマが現職でいるのに失礼だと思うのだが、安倍のあわてぶりがよくわかる。

   新聞各紙の社説も、トランプの手法は「露骨なポピュリズムそのものだ」(朝日新聞)、共和党はネオコンやティーパーティーなどと協調するうちに方向性を見失い「トランプ氏という『怪物』を出現させた」(毎日新聞)、「米国政治の劣化は深刻である」(読売新聞)と、日本も同じ惨憺たる状態であることを脇に置いて論じている。産経新聞などはこの機会に便乗して、安倍首相は「具体的な防衛力の強化策を講じることが不可欠」だと、さらに軍事力を増やせと煽っているのである。

   ニューズウィーク日本版には「トランプ大統領は独裁者になるのか」という記事がある。同誌のワシントン支局長は、もしトランプが大統領になったとしても(あくまで仮定としてだが)、トランプはヒットラーでもなければファシストでもない。独裁者にはなれないと断じている。<実際には、トランプ大統領の時代はごく地味になるだろう。(中略)トランプは自分の能力と男らしさに自信を持っている。とはいえ、三権分立のアメリカの政治制度には太刀打ちできない。(中略)大統領は本質的に立場が弱く、他の人に自分の望むことをさせるには、説得の力を使うしかない>

   内田樹氏は「街場のアメリカ論」の中で、アメリカの有権者は表面的なポピュラリティに惑わされて適正を欠いた統治者を選んでしまう彼ら自身の「愚かさ」を勘定に入れて、統治システムを構築していると記している。<いかにして賢明で有徳な政治家に統治を託すかではなく、いかにして愚鈍で無能な統治者が社会にもたらすネガティヴな効果を最小化するかに焦点化されているのです。そのために配慮されるのは、まず、「権力の集中」を制度的に許さないことです>(「街場」より)

   米大統領より日本の首相のほうがはるかに大きな権限を持っていることは、安倍が日銀に介入したり、安保法制を強行採決したことでもわかる。内田氏は先日会ったとき、今のアメリカについて私にこう話してくれた。「安倍という人はアメリカの弱みに付け込んでいるわけです。三期九年に任期を延ばして、憲法改正もやるかもしれない。アメリカから、それはよろしくないという不快感の表明みたいなものがあって然るべきなんです。言えなくなっているということは、アメリカの国力の劣化が、僕らの想像以上にひどいということです。

   アメリカの他の同盟国が次々とアメリカとの関係を見直しているわけです。フィリピンのドゥテルテ大統領がアメリカを批判しているのを見たって、アメリカがどれぐらい力がなくなっているかわかるはずです」

   劣化した国を「偉大なアメリカを取り戻そう」というだけで大統領の座を得たトランプは、同じようなスローガンを掲げて就任したロナルド・レーガンを思い起こさせる。

   ニューズウィークは好戦的だと思われたレーガンはソ連と過去最大規模の軍縮協定を結んだし、ベイルートで米海兵隊兵舎が爆破されても反撃せず、撤退させた。トランプも批判者を認める柔軟なイデオロギー、交渉力、コミュニケーション力といったよい点を備えているが、<しかし欠点がそれらを台無しにしてしまう。他宗教へのかたくなな態度、メキシコ人への侮辱、傲慢極まりない姿勢などだ。

   トランプが大統領になっても、強烈な個性と弱いものいじめだけで記憶され、取るに足りない存在として歴史の教科書に名を残すだけだろう>と書いているが、トランプ大統領が現実になる前に書かれた文章だとしても、楽観的すぎると思う。

   どうせ失うものなど何もない。既成の政治家はわれわれ貧しい者には目を向けず声を聞いてもくれない。それを聞こうとしたフリをして見せたのが、不動産で巨万の富を築き、弱者のことなど考えたことなどなかったトランプだったところに、アメリカの底知れぬ悲劇がある。アメリカの背中を追い、アメリカの物真似しかしてこなかった日本は、宗主国の迷走をただ黙って眺めるだけである。そうしてアメリカ、日本、世界の崩壊は早まっていくのだろう。

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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