入居待ち52万人の特養ホームに空きが2万床の不思議

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   老人ホームは宝くじ---特別養護老人ホーム(特養)のベッド数は56万床なのに、入居待ち52万人は絶望的な数字だ。ところが、そのベッドに空きがあるという。最近の調査で稼働率は96%と出た。2万床が空いている? どういうことか。原因を見ると......。

①介護スタッフの不足

   東京・葛飾区の特養、120のベッドのうち10が空いたままだった。国の基準で必要な職員数を確保できないため、定員まで受け入れることができないのだ。施設は、施設内に保育所を作るなどして子育て世代の確保を図り、ようやく定員受け入れにこぎつけた。が、同じ区内に新たな施設がオープンして、今度は人材の奪い合いになりそうだという。

②入居者の線引き

   2年前、国は特養の入居条件を、介護の必要度で5段階に分け、介護度の低い2段階は原則入居できなくなった。

   一人暮らしの男性(81)。認知症で、薬を飲むことも忘れる。着替えや入浴も難しくなっているが、歩いたり食べたりはできるので、要介護2。入居できない。火の始末などで、本来目が離せないのだが、「綱渡り状態かな。もし事故でもあったら」と支援センターの職員は言う。

③需要と供給にズレ

   山口・美祢市では、別の理由でベッドが空いていた。過疎化が進んで人口が減り、入居希望者も減っている。特養の施設長は、入居者の確保のために、「営業で」病院を回る。病院を退院する人を紹介してもらうのだ。

   ところが市は、入居待機者が118人いると、新たなホームの建設を計画した。美祢にはすでに7つの施設がある。施設の代表者らは計画に反対した。実態はもっと少ない。声をかけた半数以上が、入れない、入らない、それが実態だと。結局市は、計画を延期した。

   2年前国は、2020年代初めまでに50万人分の受け皿確保を目標に、「新たな安心社会保障」を打ち出した。これまでに出した補助金は2550億円にもなる。にもかかわらず、空きベッドでは、話が合わない。

   この問題を「ミスマッチ」と問われた塩崎厚労相は、「引き続き『1億総活躍プラン』に基づく介護施設整備に全力をあげていく方針に変わりはない」と答えていた。わかっていないのか?

   結城康博・淑徳大教授は、「全国で2万ベッドが空いている。とくに『要介護2以下』が入れなくなって、空きが慢性的になった。自治体のニーズ調べが、かなりずさん。そこでミスマッチが起こる」という。

国交省は「サービス付き高齢者向け住宅」

   国土交通省が推進する「サービス付き高齢者向け住宅」というのもある。バリアフリーの賃貸住宅で、利用料が月に14万円。60万戸を目標に平成23年にスタートして、わずか6年で21万5000戸ができた。この結果、悲惨なことが起きていた。

   愛知南部の西尾市は人口17万人。半径5キロの範囲に施設が乱立する。地図で数えると、1、2、3......14、15。半分が空き部屋で「いつ倒産するか」という施設もある。8億円をかけて作った50部屋の施設は、オープン前に倒産して閉鎖のまま。建設途中で放置された現場もあった。

   国は、建設費の補助、固定資産税の優遇などの優遇措置でプロジェクトを推進。さらに、「サブリース契約」が建設を加速させた。土地所有者は建設費を出すだけで、運営を委託でき、空室があっても一定の賃料が入る仕組みだ。建設会社や経営コンサルタントが続々と参入した。誰もニーズを考えなかったらしい。

   倒産した運営会社の元社員は、「空室が埋まらず、1日で500万円単位で負債が増えていった」という。このプロジェクト、廃業と登録取り消しの申請数が、NHKの調べで263件もあった。

   だが、国交省の担当者は、「必要な住宅が供給されていることが重要」と続ける構えだ。発想が「住宅建設」にあることは明白。住宅屋に福祉は似合わない。税金の無駄遣いとも思っていないようだ。

   これが、安倍首相の言う「安心につながる社会保障」の断面だ。母親を10年介護したジャズシンガーの綾戸智恵さんは、「思い込み、リサーチ不足、傲慢、この3つが負ける原因と、子供の時に習ったことがある」と言った。安倍さんに聞かせたいが、彼は今それどころではないか。

クローズアップ現代+(2017年3月16日放送「"老人ホーム"が空いている!?」)

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