2024年 4月 25日 (木)

フェイクニュースで自殺に追い込まれた台湾の外交官 日本との親善に尽くした彼を襲った「ある情報」とは

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   ネット上のいい加減なうそ情報・フェイクニュースが拡散すると、人間の命までも奪うことがある。その典型的なケースが、昨年(2018年)9月4日、関西を襲った台風21号から持ち上がった。

   強風に流された大型タンカーが関西空港の連絡橋に激突し、交通がストップ、空港にいた3000人が立ち往生した。救出をめぐって責任を問われた台湾の外交官、大阪事務所トップの蘇啓誠さん(61)が関西空港孤立から10日後の9月14日に自殺に追い込まれたのだ。

   この10日間にネットの周辺で何があったのか。

   蘇さんは大阪大学大学院を経て、台湾の外務省に当たる外交部に入り、2018年7月から大阪事務所代表(台北駐大阪経済文化弁事処長)になった。外交関係があれば「総領事」にあたる。その2か月後に台風21号が関西を襲った。

「中国大使館は救出バスを手配したのに台湾事務所は何もしない」

   関西空港に閉じ込められた人の3分の1は外国人で、ほとんどが観光客だった。翌9月5日からSNSに投稿が続いた。「中国大使館が専用バスを手配して人々を救出した」という中国語の書き込みだ。すぐに「強い中国 いいね!」といった称賛の反応がわいた。

   空港内で中国人からこの情報を得た台湾籍の親子連れは、「中国だけが助けに来るのは変だと思ったが、あまり気にはしなかった」そうだ。実はバスはすべて関西空港手配したものだが、「中国が用意」という情報はたちまち500件に上り、翌日も増え続けた。「中国人であることを認めるなら台湾の旅行者も乗れる」という情報も広がり、台湾人の感情に微妙なさざ波を立てた。

   その台湾の対応について、ネット投稿が書きたてた。「中国は救出に積極的なのに、台北ときたら」「台湾の駐日事務所は何をしている?」「台湾の外交官はクズばかり」「駐日事務所なんてなくしてしまえ」......。

   そのころ、台湾の大阪事務所は救出準備やホテル、航空券の手配に忙殺されていた。それが伝わることはなく、抗議のメールや電話ばかりが1000件を超えた。そればかりか、台湾の大手メディアも一斉に批判を始め、台湾の野党からも「駐日事務所は傍観しているのか」と批判が噴出した。蘇さんが矢面に立たされた。

   蘇さんと親交のあった滋賀県の医師、王輝生さんは「これはフェイクニュースだから」と反論するように促したが、蘇さんは「誰にも聞いてもらえなかった」と言っていた。王さんとの最後のメールから2日後、蘇さんは自殺した。

   中国による救出バスの一件がフェイクニュースだったことは、蘇さん死亡の翌日、台湾のNPOが突きとめた。スタッフは「不確かな情報が瞬く間に100倍、1000倍になり、メディアも信じ、世論の圧力がかかった」という。

文   あっちゃん
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