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「シッコ」
マイケル・ムーアが「米国医療制度」の欠陥を突く

【 365日映画コラム 】
07/8/ 9 コメントを見る・書く(6)
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   マイケル・ムーアの功績は、真面目で地味でつまらないとされてきたドキュメンタリー映画をエンターテインメントに昇華させたことだろう。そしてその中に強烈なメッセージを託している。


   最初の映画はGMのレイオフをテーマにロジャー・スミス会長を追い詰める「ロジャー&ミー」。ここまでやるかと見る方に不快感を覚えさせたが、その印象は銃社会を非難する「ボウリング・フォー・コロンバイン」やブッシュ批判の「華氏911」でも残っていた。しかし本作では強引な追っかけや無理強いのインタビューは無い。彼の主張は万人がもっともだ、と受け入れられるロジックと事実で成り立っている。

   ムーアが取上げているのはアメリカの医療システムだ。民間の高額の医療保険に入っていなければ適切な医療を受けられない。貧乏人には高嶺の花。金があって保険に入ろうとしても既往症で断られる人が多い。健康な金持ちしか保険に入れない。保険の無い人が人口の1/6と5000万人近くいる。ムーアはブラックユーモアでその例を紹介している。

   薬指と中指の先端を切り落としてしまった男が、医者から「接合は中指だったら6万ドル(720万円)薬指なら1.2万ドル(150万円)」と言われ、ロマンチックな彼はリングのために薬指だけつけてもらった。それに比べてカナダでは、5本の指を切断した男が一銭も払わずに5本とも接合してもらった例がある。更にイギリス、フランスと国民皆保険制度の国で如何に病人が無料で優れた医療を受けているかを紹介する。

   特にムーアが怒っているのは、911後のグラウンド・ゼロで作業した人たちが呼吸器系の病状などに侵されているのに、ボランティアは政府職員で無いために適切な医療を拒否されていること。911のテロリストはキューバのグアンタナモ基地の病院で手厚い看護を受けており、しかも最高レベルの医療施設だと。ムーアは病人を連れてマイアミからボートで基地へ渡るが当然の拒否に遭う。ならばと今度は仮想敵国のキューバの街に入って医療を受けようと病院を訪ねる・・・。

   アメリカの医療制度は民間の保険会社が医療費をなるべく払わなくても済むような態勢にある。例えばマット・デイモン主演「レインメーカー」を見れば保険制度の残酷さが分かる。医薬品会社や保険会社はブッシュ大統領やヒラリー上院議員など政治家に多額の献金をして政治的な保護を受けている。

   この映画はムーアの今までの映画の中で最高の説得力を持つ。悲惨な患者を紹介し、外国を訪れて分かりやすく彼我の差を比較し、ユーモアたっぷりで楽しく(?)見られる。この方向で行く限り、彼は大衆の支持を得られるだろう。一つ心配なことがある。日本はこの映画に出てくる諸国と違い、医療費は無料どころか患者負担を3割強いられている。来年4月からの医療改革が、アメリカ並にならないように祈るだけである。


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