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奥田経団連会長・胡錦濤主席極秘会談の真相

「小泉首相の靖国参拝が経済関係のネックに」
北京新幹線、省エネ、環境技術…胡主席が奥田氏に語る

   日本の信頼すべき財界筋は05年11月30日、日本経団連の奥田碩会長と胡錦濤・中国国家主席が9月末に極秘に会談した内容を明らかにした。それによると、胡主席は「小泉首相の靖国参拝が経済関係のネックになっている」と述べて、首相の靖国参拝の中止を求めたという。これまで、会談は儀礼的なものとされていた。

   奥田経団連会長が中国の胡国家主席と会談したのは05年9月30日。会談には奥田会長のほか新旧の(経団連の)中国委員長である三村明夫新日本製鉄社長、森下洋一松下電器会長、国際関係の担当副会長宮原賢次住友商事会長、和田龍幸経団連事務総長の5人が出席した。

胡錦濤・中国国家主席は、小泉首相の靖国神社参拝が北京新幹線受注の障害になっていることを示唆した
胡錦濤・中国国家主席は、小泉首相の靖国神社参拝が北京新幹線受注の障害になっていることを示唆した

   席上、胡主席は「中国は日本の経済協力を必要としているし、将来にわたって友好的な関係を発展させたい。北京新幹線も日本の技術を導入したいし、省エネ、環境技術も日本に協力してもらい、バランスのとれた経済発展を遂げたい。しかし、首相の靖国参拝がネックになっている」と、両国の関係改善、発展のためにも首相の靖国参拝を中止するよう働きかけて欲しい、と要請した。

   経済界は奥田会長に限らず、首相の靖国参拝には批判的で、自粛を申し入れていた。奥田会長は帰国後直ちに小泉首相と面会し、胡主席のメッセージを伝えた。しかし、小泉首相は首を縦に振らなかった。このため奥田会長は「仮に今年も参拝するのならレベルダウンすべきだ。羽織袴ではなく平服で、公用車ではなくタクシーで参拝すれば中国側は評価する」と強く要請した。

   その結果、タクシーは使わなかったが、平服で、ポケットから100円硬貨を取り出して賽銭箱に投げ入れるという一般人と同じ参拝スタイルになった。

   これに対し、中国側は公式には小泉首相を厳しく批判したが「中国首脳部は国民の手前、表むきは批判しているが、今年は小泉首相が参拝のスタイルをレベルダウンさせたことで、中国の意向を汲んでくれたと評価している、と連絡があった」と関係筋は明かす。

   極秘会談は、日中関係の悪化を心配している王毅駐日中国大使のはからいだった。悪化している日中関係を改善しようと、王大使は外交ルートを通じて首相の靖国参拝を中止させるように働きかけていたが、外交ルート以外では政権に最も影響力がある奥田会長を頼りにしている。2人は頻繁に会食をしたり、ホットラインで日常的に情報を交換している。政治関係が冷え込んでいるのだから、経済界だけは何とか中国政府とのパイプを維持、発展させなければならないという考え方からだ。王大使にとっても、日中の関係を発展させる手立ては経済界に頼るほかないという事情もあった。

   当初、王大使が奥田会長に持ちかけた訪中は8月16日だった。奥田会長は単独で訪中するのではなく、日本経団連の中国委員会関係者を誘うが、私的なミッションで、外務省など政府関係者は会談に立ち合わせない方針で中国と調整を進めた。しかし、8月16日は終戦記念日の翌日。15日に小泉首相が靖国に参拝したら16日の会談は不可能になる。

   中国側にしたら16日に会談を設定することで15日の参拝を牽制する狙いがあるのは明らかで、奥田会長はこの提案に乗るわけには行かず、断らざるをえなかった。奥田会長は8月下旬を提案したが、胡主席の日程と調整がつかず延期された。

   しかし、王大使の動きはすばやかった。9月に入るとすぐに9月30日なら夕方に時間が取れると伝えてきた。ただ、奥田会長は日中経済協会のミッションで26日に訪中し温家宝首相に会うことになっており、そうなると1週間に2回も訪中する。これがマスコミに知られ、詮索されるとまずい、ということになり、胡主席との会談は外部に漏らさないように緘口令が敷かれた。とくに事前に漏れると中国側がキャンセルする可能性があるためだ。しかし、この情報を事前につかんだところもあったが、関係者が報道しないよう要請し、事なきを得た。

   しかし、27日にいったん帰国、29日に再訪中する日程は異例で、さまざまな観測を呼んでいた。秘密にすべき内容もない、とされたため、一部では「中国内部での勢力争いの結果だ」といったうがった見方も出ていた。奥田会長も、会談が靖国問題に絡んだものであることを否定している。

   経団連会長は来年(06年)5月に御手洗冨士夫キヤノン社長に交代する。財界活動の経験は本人も会社も全くない。政治と距離を置くことを社是としているため政界とのパイプはゼロ。奥田会長のように財界総理的な動きは期待できず、対中国関係でも影響力の低下が心配されている。