2024年 4月 25日 (木)

編集長からの手紙
武士道コンプライアンス

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   武士道に関する書籍がベストセラーになっている。ひとつは新渡戸稲造の古典名著「武士道」に解説などを加えた「ビジュアル版対訳武士道」(三笠書房)、もう一つは藤原正彦著の「国家の品格」(新潮社)である。2003年にトム・クルーズが監督、渡辺謙が主演した映画「ラスト サムライ」が話題となっており、武士道、サムライが日本の現在を見るときの一つのキーワードになっている。

   すでに100万部を越す藤原氏の著書の内容は合理主義偏重、論理至上への批判で、その対極に「情緒」と「形」を置いている。形とは武士道精神からくる行動基準である。「とどまるところを知らないアメリカ化が、経済どころか社会、文化、国民性まで侵してしまった」といい、卑怯とか下品といわれることを、日本人は気にかけなくなったと嘆く。
   リストラ、企業買収、成果主義賃金、そして、「勝ち組、負け組」といわれる昨今の弱肉強食の風潮を「やりすぎ」と思っている人に溜飲を下げさせた。若者のマナー欠如、ニート増加など、「世の中大丈夫か」といらつく人への精神安定剤。本来の日本人は素晴らしい、と書いてあるのを読んで、対立する中国、韓国や強国アメリカが嫌いな人の優越感をくすぐる。などなど、ベストセラーの要因はいくつかある。
   一方で、そんな精神論を言っているからだめなんだ、国家主義につながるなどの批判もある。
   新渡戸稲造の「武士道」は1899年(明治32年)にアメリカで出版された。原典は英語版である。書名は「BUSHIDO、The soul of Japan」だった。世界的に反響を呼び、ドイツ語、フランス語、中国語など多くの言語に翻訳出版された。日本版は1900年(明治33年)の発行である。誠、忠義、品性、切腹、大和魂などが語られている。
   この直後の1904年、日露戦争が勃発、翌05年に日本が勝利する。そして出てきたのが「勝因は武士道にあり」だった。
   哲学者で詩人、当時の人気東京帝大教授・井上哲次郎は思想家・有馬祐政と共著で「武士道叢書」全3冊を出版している。大手出版社・博文館は「武士道叢論」「武士道家訓集」など武士道ものを続々出した。1907年前後である。明治維新以後、国家が形成されていく過程で、まさに「国家の品格」として武士道が人気コンセプトになった。
   武士道コンセプトは天皇の軍隊の規範として採用されたといわれる。1882年(明治15年)に軍人勅諭が出されるが、この元となったのが武士道だった。それまで、武士という職業階級の規範だったものを国民一般の軍人の拠り所とした。忠節、礼儀、武勇、信義、質素の5つが柱となっている。これでもって日露戦争に勝った、というのはいささか無理があると思うが、武士道で勝った論の根拠はここのあたりにあったのだろう。
   私事で恐縮だが、私の祖父の倫理学者蜷川龍夫も当時「日本武士道史」を博文館から出版していた。「日露戦争以来、武士道の研究は政治家、実業家、軍人、学者を問わず一大事となっている」と、なかなか勇ましい。実業の世界では「正義、清廉、正直、武勇を加味してビジネスに務めるべし」で、これはすなわち英国人のいわゆるゼンツルマンシップ(Gentleman ship)と結んであった。なるほど、今で言う企業のコンプライアンスではないか。

発行人(株式会社ジェイ・キャスト 代表取締役)
蜷川真夫

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