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ディーゼルでも世界制覇 トヨタの壮大なる「野望」

   次世代V型ディーゼルエンジンの有無が、自動車メーカーの勝敗の鍵を握る状況となってきた。最大市場の北米で売れる車はSUVやピックアップトラック。これらの車にピッタリ合うディーゼルエンジンはV型8気筒やV型6気筒のエンジンだ。ところがトヨタ自動車の現有ディーゼルエンジンは直列型のみ。しかも米国で2009年にはじまる新環境規制のクリアという大きな課題がある。そこでトヨタはV型を持ついすゞ自動車と提携し、米国で売れるディーゼルエンジンの技術を手に入れ、さらにディーゼルハイブリッド車を市場投入して、この分野でも「独走」を狙っている。

   これまでディーゼルエンジン車の主要市場は欧州だけだった。しかし、北米やアジアなどでも、燃料高の影響を受けてディーゼル需要が高まりつつある。米国のディーゼル車比率は、現在の3%が2010年には20%にまで拡大するという予測も出てきた。今のディーゼルエンジンは、燃費が良くてクリーンというだけでなく、パワーも併せ持つというイメージが広まってきたためだ。

ディーゼルエンジンといえばドイツ勢だった

「レクサス」ブランドからV型ディーゼルエンジン搭載ハイブリッド車の発売も計画
「レクサス」ブランドからV型ディーゼルエンジン搭載ハイブリッド車の発売も計画

   ディーゼルエンジン車のイメージを高めてきたのは、ダイムラークライスラーアウディBMWVWなどのドイツ勢だ。とくにアウディは、5.5リットルのV型12気筒ツインターボディーゼルエンジン搭載車で06年のル・マン24時間耐久レースに勝利。ダイムラークライスラーは昨年、メルセデスベンツ用の3リットルV型6気筒ディーゼルエンジンを開発し、従来の直列5気筒または6気筒より最大4割近くパワーアップさせた。

   V型エンジンの最大の特徴は、直列エンジンよりも構造が複雑でコスト高となるが、コンパクトで静粛性に優れ、振動も少ない点にある。そのV型ディーゼルエンジンを持つのがいすゞであり、現在、GMのSUVなどに6.6リットルのV型8気筒を、ルノーとオペルのセダンに3リットルのV型6気筒のディーゼルエンジンを供給している。この6気筒はオールアルミエンジンであり、トヨタにとって大きな魅力となっている。

米国の排出ガス新規制は日本の3分の1という厳しさだ

   だが、09年を境に日本・欧州・米国の主要市場で排出ガス規制がかなり厳しくなる。この排ガス規制をクリアーできない企業は、市場から転落してゆく。とくに内容が厳しい米国の新たな環境規制「Tier II Bin5」への対応が大きな関門だ。現在、ディーゼル車の排出ガス規制が世界で最も厳しいのは日本だが、米国の新規制は排出ガス中のNOx濃度を日本の3分の1にまで引き下げる。
   その規制にドイツ勢は、ダイムラークライスラーが持つ「尿素水」を使った手法で対応しようと結束した。だが難点もある。燃料を給油するように尿素水を給水しなければならず、尿素水を供給するインフラ整備が問題だ。
   ところがホンダが、尿素水が不要となる次世代ディーゼルエンジン技術を開発した。ホンダは新規制をクリアした直列4気筒の2.2リットルディーゼルエンジン搭載車を09年に米国で発売するだけでなく、この次世代技術を用いた3リットルV型6気筒エンジンの開発も進めている。

   米国市場でのエコカーの称号は、ハイブリッドとディーゼルが争うことになりそうだ。トヨタとしては、環境技術でドイツ勢はもちろん、ホンダに負けるわけにはいかない。そこで新規制に対応したV型ディーゼルエンジンの開発が必要不可欠となった。

   V型エンジンは、米国市場では高級車に搭載されるというイメージが浸透している。トヨタはいすゞとの提携でV型の技術開発のハードルを下げ、その完成したV型ディーゼルエンジンを米国市場で発売するSUVに搭載する。さらにV型ディーゼルエンジンと電動モーターを組み合わせたハイブリッド車をレクサスブランドから発売し、エコカーNo.1の座を守る狙いだ。