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携帯電話の「0円」見直し 総務省研究会の前途多難 

   「0円」で投げ売りする携帯電話の販売手法が、結果的に消費者だけでなく、携帯電話に関係する産業全体に不利益をもたらしている――。こんな疑問から総務省は、2007年から「モバイルビジネス研究会」をスタートさせた。膨大な販売奨励金を元手に携帯端末を値引きする商慣習が通話料を高止まりさせ、消費者に負担を追わせているほか、携帯電話を製造する電機メーカーの国際競争力も奪っており、携帯電話のビジネスモデルを包括的に見直す必要があるという問題意識だ。ただ、複雑に絡み合った利害関係を解きほぐすのは容易ではなく、解決への道筋を提言できるかどうか、論議の行方は混沌としている。

仮想移動体通信事業者が参入してくる

「モバイルビジネス研究会」の前途は多難?
「モバイルビジネス研究会」の前途は多難?

   研究会は07年2月2日、NTTドコモソフトバンクモバイルから現状についてヒアリングした。両社とも、販売奨励金に問題があることを率直に認めたものの、急激なビジネスモデルの変更は各方面に影響が大きく、次のビジネスモデルも見つからないと慎重姿勢だった。このため委員から「どうすればできるかを考えるべきだ」と苦言が呈された。
   携帯電話事業者は、本体価格が4万~5万円、地上デジタル放送「ワンセグ」の視聴可能なモデルは7万円以上とも言われる端末をメーカーから買い取り、販売代理店を通じて1万~2万円台で販売している。事業者から支払われる1台約4万円の販売奨励金を原資に、販売代理店は安く端末を販売できる。

   しかし、この奨励金は、携帯電話を契約した利用者が支払う通話料に最終的に転嫁され、携帯事業者が回収している。「短期間で携帯端末を次々と買い換える人は安く購入する恩恵に浴するが、同じ端末を大事に長く使う人は割高な通信料を払い続けており、不公平だ」というのが、総務省の見立てだ。

   このため、まず手始めに検討されているのが、「SIMロック」の解除だ。現在主流の第3世代携帯電話には、電話番号などの利用者情報を記録したICカード(SIMカード)が入っており、同じ端末を一定期間使ってもらおうと、携帯事業者がカードの取り外しを制限している。この制限を外せば、SIMカードを販売するだけで携帯電話事業に乗り出す「仮想移動体通信事業者(MVNO)」の参入も促される。MVNOとは、通信設備を持たず、既存の事業者から通信網を借りて通信サービスを提供するものだ。総務省はMVNOに関係する関係法令の運用指針を改定しており、新規参入を容易にして携帯事業者3社の寡占状態を崩し、通話料の引き下げや多様なサービスの登場を期待している。

販売奨励金とSIMカードが問題解決のカギ

   しかし、2日のヒアリングでドコモは「SIMロックは販売奨励金(のビジネス)モデルと相まって機能している」とし、解除すれば端末は定価販売になり、通話料値下げの余地は生まれるが、iモードは利用できず、端末の販売量が減少してメーカーや代理店のビジネスが縮小すると説明した。「ソフトバンクモバイルとドコモの端末はSIMカードで共有できるが、通信方式の異なるKDDI(au)とは共有ができず、競争市場にゆがみが生じる」とも訴えた。

   多額の販売奨励金は、高価だった携帯電話をいち早く普及させるのに有効なビジネスモデルだった。しかし、携帯事業者に端末を納めれば一定の利益が確保できるため、海外市場に積極的に打って出るメーカーがいなくなり、世界市場はノキアモトローラサムスンが制している。日本メーカーの携帯電話端末の世界シェアは10社合わせても10%未満というありさまで、国際競争力の低下は明らか。

   モバイルビジネス研究会の発足にあたって菅義偉総務相は「販売奨励金とSIMカードの問題を基本に立ち返って検討してほしい」と委員に要望。研究会は9月をめどに改善策を最終報告に盛り込むが、ビジネスモデルの転換に時間がかかるだけに、携帯事業者やメーカー、販売代理店など各者の利害解きほぐしに向けて、関係者の知恵と努力が求められている。