J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

ビール業界に大異変 サッポロビール1人勝ちの真相

   ビール大手5社が2007年3月12日にまとめた07年2月のビール系飲料の出荷量(課税ベース)は、前年同月比2.9%減の3,226万ケース(1ケースは大瓶20本換算)と2カ月ぶりに前年実績を下回ったが、サッポロビールだけは、伸び悩んだ他社をシリ目に約10%増と1人勝ちを収めた。「外資に負けるなという応援」という報道もあるが、異常ともいえる数字はこれだけでは説明できない。

第三のビール「うまい生」が絶好調

“第三のビール” 「うまい生」の売れ行きが好調だ
“第三のビール” 「うまい生」の売れ行きが好調だ

   サッポロビールの快進撃の原因を新聞各紙は似た論調で書いている。

    「サッポロは、米系投資ファンドから買収提案を受けている。ビール事業は不振続きだが、買収騒動で消費者の”応援効果”が働いたもよう」(西日本新聞07年3月14日付け)。

   つまり、米スティール・パートナーズに買収提案を受けたのが07年2月15日。このニュースを知ったビールファンは「サッポロビールの一大事」と、「銚子電鉄のぬれ煎餅」を連想させる「支援運動」として同社製品を買ったというものだ。また、同社の新商品「うまい生」の発売日が2月14日であり、買収騒動でメディアに露出する機会が増え、思わぬ宣伝効果が得られたとも書いている。

   それを裏付けるかのように、ビール風味のアルコール飲料である“第三のビール” 「うまい生」は、発売から2週間ほどで100万ケース(同)を突破し、同社の“第三のビール”全体を同50%増に引き上げる原動力になっている。

   1人勝ちの本当の要因は何なのか。J-CASTニュースがサッポロビールホールディングスに取材すると、同社広報は、

「広い意味で応援していただいていますが、『応援買い』があったかどうかは調査結果があるわけではないのでわかりません」

   と話した。

   同社広報によれば、米スティール・パートナーズがTOBするという意思表示はあったが、それ以降、何の提案も来ていないという。アサヒビールとの合併の報道が流れたが、「どこから情報が出たのかわからず、ありえない」というのだ。

「これまでは市場の動きに追いついていなかった」

   応援買いでないとすると何なのか。同社広報は、反省も交え、こう分析する。

「プレミアムビールと、ビールテイストの第三のビールの市場が拡大していて、そこに力を注いだ結果です。これまでは市場の動きに追いついていなかったんです」

   同社の第三のビール「ドラフトワン」は業界2位のシェアを誇るが、05年に1,985万ケース出荷したのに対し、06年は1,464万ケースに落ち込んだ。客が「よりビールに近い味」を求めるようになったからで、そうした新商品の開発が遅れていた。満を持して出したのが「うまい生」だったというわけだ。また、価格が高めの「プレミアムビール」の売れ行きが06年から非常に好調で、それに合わせる形で、既存の「エビス」ブランドも強力にアピールした。その結果「エビス」ブランド単体は07年2月で同10%増。同1月~3月上旬では同20%増を記録している。

   同社のビール系飲料の出荷量が前年を上回ったのは実に10ヶ月ぶり。同社広報は、

「長いトンネルを越えました」

   と話し、快進撃はまだ続くと言いたげだった。