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長谷川洋三の産業ウォッチ
経営: 日立製作所社長の原点

「社会インフラをイノベートするという小平浪平の創業者精神を今こそ発揮したい」――。

   日立製作所の古川一夫社長は、2007年3月25日午後4時からテレビ東京系全国ネットで放映する経済ドキュメンタリー番組「オンリーワンの原点」のインタビュービデオ収録で解説者の私にこう強調した。社長就任後初めての07年3月期決算は、連結最終赤字となる見通しで、単体の業績予想を下方修正するなど厳しい出足となった。それだけに丸太小屋で国産初の発電機を開発し、一国の枠を超えた雄大な思想で世界最高水準の総合電機メーカーを築いた創業者の心意気の必要を感じ取っている。

   古川社長は06年11月発表した「経営方針」で「独創と収益の経営」を推進し、「マーケット・インを貫き、利益の創出に徹する」ことを基本方針として掲げた。FIV(Future Inspiration Value)という独自の尺度に基づいて経営管理を徹底し、赤字が2年続くと事業部門に撤退を勧告するなど、収益性を重視した事業ポートフォリオを構築するとともに、パートナーやグループ会社とイノベーション創出に取り組んで安定的な高収益構造の確立を目指すことにした。

「再び総合の時代が来た」

   とりわけ期待がかかるのが社会イノベーション事業。日立グループが培ってきた社会インフラに関する豊富な経験やノウハウと情報システムサービスに関する最先端の技術・知識の強みを生かし、成長が見込まれる海外の社会インフラ市場に対して、強い製品とシステムの提供、それを基盤とした保守・サービス事業の拡大をねらっている。

   1910年に日本初の5馬力モーターを完成させ、久原房之助が運営する久原鉱業所から独立して日立製作所を創業した小平浪平は、その後電気機関車や扇風機など家電生産にも着手するなど、総合電機メーカーの基礎を築いた。都市部から離れた辺鄙な日立に、1936年には茨城県で初めてのゴルフ場を大甕に開設するなど、社員や外国の賓客にサービスする精神も忘れなかった。国際競争の激化で電機業界は、総合戦略の見直しに追い込まれているが、東大電気工学科の卒業で小平浪平の直系の後輩にあたる古川社長は、「再び総合の時代が来た」と、伝統の総合力発輝に期待をかけている。


【長谷川洋三プロフィール】
経済ジャーナリスト。
BSジャパン解説委員。
1943年東京生まれ。元日本経済新聞社編集委員、日本大学大学院客員教授、学習院大学非常勤講師。テレビ東京「ミームの冒険」、BSジャパンテレビ「直撃!トップの決断」、ラジオ日経「夢企業探訪」「ウォッチ・ザ・カンパニー」のメインキャスターを務める。企業経営者に多くの知己があり、企業分析と人物評には特に定評がある。著書に「ウェルチの哲学「日本復活」」、「カルロス・ゴーンが語る「5つの革命」」(いずれも講談社+α文庫)、「レクサス トヨタの挑戦」(日本経済新聞社)、「ゴーンさんの下で働きたいですか 」(日経ビジネス人文庫)など多数。